episode11

 午前11時。


 椅子に座った俺は馴染みのない天井を見上げている。


 思ったより低くいな。立ち上がって飛べば届きそうだ。それに部屋の壁もだいぶ近くて圧迫されいる様で酷く狭苦しい。

 まるでこの部屋は人が休む場所じゃなく逆に人を追い詰めるためにある部屋の様じゃないか……いや、実際そうなんだけど。


 というか、学校へ行くだけだった筈がどうしてこうなった?


「ちょっと君。今取り調べ中なんだから天井ばっかり見てないでこっち見て話をしてくれないか」

「あ、すみません。俺、警察署・・・の取り調べ室なんて初めて入ったもんで緊張しちゃいまして……」

「まぁ、気持ちは分かるがね。でも今はこっちの話に集中してほしいな。でないと君は此処から帰れないないよ」

「あ、あははは……そうですね……そうでした」


 警察署の狭い取り調べ室で向かい合う警官とチラリと見える俺の直ぐ後ろで無言のまま立っている警官二人、計三人からの取り調べされるという豪華対応……はぁ、悪事をはたらいたわけでもないのに犯人になった気分だ。

 これはこれでスリルなのかもしれないがこれはちょっとないな。


「それで君はあの爆発現場で犯人を見たのか?外で全体を見れたのは現状君1人・・・だし……あと辛うじて生きていた監視カメラの映像を見たけど君、爆発が起こると分かっていた様なタイミングぐ店から離れてたよね……どうして何かが起こると分かった」


 犯人を見たのかと聞いてる癖してその実お前が犯人じゃないのかと言っているとも取れる言葉と視線を向けてくる警官。


 さてさてどうしたものか。

 正直に話しても俺的には問題ないんだけどこの人達が信じるか信じないかで言えば後者だろうし、俺が警察を揶揄ってると思われて拘束時間は増えるだろうし、黙ってたら黙ってたらでやっぱり拘束時間が増えるだけで俺にとってはどれを選んでもマイナスにしかならないんだよな。


 返答に困る中俺は事の発端を思い出す。


 あれはそう、家の前で風磨さんに会ってどうにかこうにか撒こうとしたが結局撒けず勧誘責めされながら港に向かっていた時だ……。


「ーーあ、コンビニで昼買っとこ」


 いつもは購買でパンなんかを買うがその日の気分で俺は偶々近くにあったコンビニに立ち寄ろうとした。


 しかし、突然店が爆発した。


 今思い出してもほっとする。

 あの時、店の中からあの気配を感じて足を止めてなければ今頃、死にはしないがただでは済まなかっただろう。


 被害者は店員2人、学生2人、無職のおっさん1人、そして俺の6人。


 学生2人と店員1人は運良く軽傷。

 しかし残りの店員と一般人は重傷。

 よって5人は即病院に搬送。

 俺は爆発が起きる前に店から離れてたから無傷。なので病院に連れて行かれず第一発見者兼容疑者として取り調べ室送りという訳だ。

 

 まったく、怪我人を燃える店から運んだり警察や救急車を呼んだのは俺だというのになんたる仕打ち……はぁ、切な。


 とまぁ、回想しながらも時間はきっちり進んでおり現在……。


「ちっ、中々強情だな……一旦休憩だ」

「……」


 俺が犯人であると認めないからか警官達は怒りに任せて扉を閉めて部屋を出て行った。


 やれやれ圧をかける様な取り調べは法律的にアウトじゃなかったか?

 法の番人がそれを破ってちゃあ笑えない。


「ふぅー……息が詰まる」


 緊張が解けて椅子にもたれ掛かる。


 さて、あくまでこれは休憩で後10分程もすればまた取り調べが再開する訳だが、どうするか。状況が状況だけに両親が来ても解放は難しいだろうしやっぱりこのまま取り調べ続行か?


「はぁー、せめて風磨さんが爆発が起きた瞬間にあの場から姿を消さなければどうにかなったかもしれないんだけどなーー」

「呼びましたか?」

「っぶ!?え!?風磨さん!?」


 噂をすれば。

 風磨さんがいつの間にか俺の目の前にある机の上に立っていた。


「いっ、一体いつからそこに?」

「警官達が部屋から出た時と入れ違いでですよ」

「……因みに聞きますけど、此処にはいつ来たんですか」

「君と同じ時にパトカーの上に失礼してですが?」


 つまり最初からじゃねぇかよ。

 自分はカメラにも人目にもついてないからって上手いこと逃げやがって……はぁ、これのどこが運の良い日なんだよ。


「どうしました?不貞腐れた様な顔をしてますよ?」

「べっつにぃ……で、何しに来たんです」

「ふむ……そうですね。時間もないですし本題に移りましょう」


 そう言って風磨さんは机の上から降りるとスマホの画面を俺に見せる。


「気配がしたから分かってたけど、やっぱりか」

「ではやはりこれが嬢様や君の言っていた例の」


 画面に表示される画像。

 そこに映る姿は以前見た種類とは違う。

 しかしその体を形どるモヤと動物の頭蓋や爪は間違いない。


「死獣」


 なるほどこいつの気配、というより足音とか物音だろう。風磨さんはそれを感じたからあの場所から姿を消して後を追い姿を撮影していたわけだ。


 凄いと素直に思う反面、命知らずだと思う。死獣は基本、俺達電獣になれる或いはなった人間を率先して襲う性質があるがそれ以外の人間も魂の強さの有無で襲われるのだから。


「余計なお世話かもしれないけど一人であまり死獣に近づかない方がーーん?」


 忠告をしたが風磨さんはまるで信じられないと言いたげに食い入る様に死獣の画像を見る。


「貴方でもやっぱり怖いですか?」

「……いえ、ただ」

「ただ?」

「……今の今までそこになかったものが突然世界の一部として現れて驚いている。ただそれだけです」


 その気持ちは分かる。

 俺も初めて成り損ないを見た時は風磨さんと同じ様に驚いた。

 

 しかし流石は只者じゃない風磨さんは数秒程で動揺を消し落ち着いた態度で話を再開した。


「さて、提案なのですが静希くん」


 風磨さんの目の色が変わる。


「この件、我々に手を貸して貰えないでしょうか?」


 このタイミングでその話を持ち出すか……面倒な。


「協力するなら此処から出してやる。ただし自分達の手駒に俺がなるのなら……そういう事ですか?」


 風磨さんは何も言わずに笑う。


 本当に面倒な話だ。

 何しろ穏便に脱出する手がない現状では風磨さん達に協力する事こそが穏便な脱出方法で対価に勧誘の話を出すのは当たり前だ。


「それで返答は?」


 ちっ、これ見よがしに詐欺師の様な営業スマイルを浮かべやがって……。


「……分かった。今回は利害関係の一致で協力させてもらう」


 不本意にも程があるが他に手がない以上、こうするしかない。


「ご理解感謝します。君が協力してくれるならお嬢様も喜びますし今回の件は早々に解決出来る事でしょう」

「……」

「そうと決まれば私はお嬢様への連絡を兼ねて一度此処から出ますので暫くお待ちください。では」


 そう言って早々に音を一切立てずに取り調べ室を後にした風磨さん。


 きっと……ご主人様、褒めて褒めて!みたいな感じで星宮に連絡しに行ったのだろう。忠犬偉い偉い。


「はぁ……やっと一人になれた……」

 

 本当に一時であるが息の詰まる状況が切れた。


 そんな中俺は不意に風磨さんが言った言葉を思い出しそれへのツッコミを無意識に口に出す。


「早々にね……この状況でそんな言葉。フラグじゃねぇか」

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