episode9
まさか……いや、それは流石にないとは思う。けど、確証もないし……聞いて、みるか?
「えーと、お2人さんはもしかして電獣云々の話は知らないんですか?」
恐る恐る尋ねると2人は先程の殺意が嘘の様になく、激しく首を縦に振って肯定した。
それを見て俺は思わず眉間を摘んでしまう。
「おい星宮。この人達にちゃんと電獣の事について説明したのか?」
「え、言ってなかったっけ?」
あ、言ってないやつだこれ。
「言ってませんし聞いてません!」
「と言うかお嬢様もそこの彼とおんなじってどいう事!?」
「え、その事も話してなかった?」
「「話してない!」」
「はぁ、ちゃんと話しておいてやれよ。こんな割と大事な事」
傍から見てたら面白い光景ではあるんだけど当事者である俺からしてみたら2人が本当に気の毒過ぎて笑えない。
しかし雇用主でこの場で一番知識のある奴は全く気にした様子もなく言いやがる。
「うーん、それもそうだね。まだ街の人達が戻って来るまで時間もある事だし此処で話そう!あ、聞きやすい様に各々楽な姿勢でね」
呆れつつ星宮に言われた通り俺達は楽な姿勢をとると説明はとっとと始まった。
まず話し始めたのは全ての始まり。
『ビーストライフ』
去年終わったスマホのVRゲームアプリ。
自分達はランダムで作成された動物になって広大なフィールドを自由自在に駆け回りミッションや戦いを行う老若男女問わず世界中で人気だった他に類を見ない伝説的なゲームーーと、表向きはなってるけど実のところこのゲームはただのゲームじゃない。
「ビーストライフの目的は自分の魂を人格に上書きする事によって人をより安全に簡単に進化させる事が出来るかのシミュレーションであり最後には完成したそれを私達に宿らせる畑だったのさ」
「魂を人格に、ですか……」
「お嬢様、すみません。何を言ってるのか私さっぱり……」
「そうだよね。二人が困惑するのも分かる。私も開発者から聞いた時は半信半疑だったし上書きを終えてから信じたくらいだからね」
確かにその通りだ。
俺も上書きを終える前にこんな話聞かされても二人と同じ反応になっただろうし。
『人格』
それは今を生きてる俺達の意思であり終われば魂にくべられ消えるもの。
『魂』
それは意思のない前世の俺達であり命。終われば人格を吸収して新たに生物に宿り続けるもの。
これぞ乱されざる自然界の摂理。
「……だったんだけど、開発者は巡り続ける魂の中から私達が一番強い前世、獣だった頃の私達を引っ張り出して上書きし魂に意思を与えた」
ほとほと呆れたと言わんばかりに苦笑いを浮かべる星宮に男は問いを投げる。
「な、なぜ獣の魂なのでしょうか?別に強いなら人間でもよかったと思うのですが?そ、それに魂を上書き?そんな事、神でもなければ……」
「まず獣の魂から答えようか……人間は生物学上色々な解釈をされているんだ。地球上で一番進化した生物や進化の止まった生物……さてこの二つに共通する事はなんだと思う?」
その星宮の問いに二人は分からないと首を横に振る。すると星宮は俺を見る。
ご指名ってわけね。
「どちらもそれ以上進化がない」
「その通り。そしてそこで開発者達はこう思ったんだよ。なら人の強味である知性や理性を残して人が持たない強い何かを持つ獣を混ぜてしまおうってね。その結果生まれたのが進化した人間、電獣」
「「っ!?」」
星宮が俺を指差し二人の視線が俺に集まる。
「人をサンプル扱いすんな」
「あはは、ごめんごめん」
まったく、面白がりやがって。
全然謝る気がないのが言葉から透けて見える。
「さて、そんなぶっ飛んだ進化を提唱し実現した開発者だけど、これは多分静希くんも知らないよね?」
「ああ、上書きの時に知った知識の中には開発者については何もなかったからな」
「まあ、そうだろうね。私も一人とは会って話をした感じ自分達の事を認知させようとする輩ではなかったし他もそうなんだろうね」
聞いてる限り謙虚そうな開発者に思える。
だが星宮の顔は思い出すだけでも嫌だと言わんばかりだ。
「そんなに変な奴だだったのか?」
「変も変。あれは心身ともに間違いなく人外の類だよ。出来れば二度と会いたくないし他にも居るらしい二人とも会いたくない」
一人と会った印象でそれか。
なら俺も関わらないようにしよう。
まぁ、機会なんてないだろうが。
と、思う俺だが二人は逆だった。
「お嬢様にその様な不快な思いをさせるとは、許せませんね」
「ええ、今すぐにでも改心させないといけないわね……恐怖で」
うへぇ、殺気ダダ漏れ。
おっかなすぎんだろ。
素性を知れば今すぐ飛んで行って何をするか分からない二人。俺は星宮が柔らかくいさめるだろうと思っていた。
「二人ともやめときなよ。あんなのは関わるだけ損しかない」
「は、はい……」
「分かりました……」
星宮は笑う事なくまるで危険地帯へ行くことを止める様な真剣な顔と言葉で止めた。
死獣に追われてても戯けて余裕そうだったのに開発者達にはこんな真剣な反応をするのか。
「開発者達っていうのは、いったい何者なんだ?」
俺の問いに対していさめられと二人も興味深そうに星宮に視線を向ける。
しかし星宮は本気であまり語りたくないのか数分程目も伏せて沈黙した後、重そうにその口を開く。
「……私が合った奴の名は法師。そいつが言った残りの二人の呼び名は賢者と博士……確か三人合わせて
〜〜〜〜〜
窓もないもなく夜より暗い一室に声が響く。
「暗いな」
声の数秒後テーブルの上に置かれた蝋燭に突然火が灯りほんの少しだけ部屋は明るくなりテーブルを囲うように座る三人の影が浮き出る。
「蝋燭とは古風ですね」
白衣を着た男がそう言う。
すると着物を着た男が皮肉げに笑う。
「はは、かび臭い根暗にはお似合いだと儂は思うが?」
「お前にだけは言われたくないよ……陰険な化物が」
「……それは喧嘩を売っていると思ってよいのか?」
「それはこちらのセリフですよ」
「「……」」
二人の激しい怒気によりテーブルが軋み蝋燭の炎が激しく揺れる。
数秒の睨み合いの後、二人が椅子から立ち上がろうする。
「ーー法師。博士。そこまでだ」
静観していた最後の一人、スーツの男の静かな声が部屋に響く。
すると二人はため息を吐き腰を戻した。
怒気が消えテーブルの軋む音も蝋燭の火の揺れもおさまる。
「よろしい。では本題に入ろう」
まるで何もなかった様に淡々と場を仕切り話し始めるスーツの男。
「本日日本で新たな電獣が産声をあげた」
「……それはまた成り損ないではないのですか」
「いやいや、死獣なら我々を招いてまで話をするとは考えづらい。となると……」
「勿論、フェーズ1到達者だ」
「それは朗報ですね」
「ええ、ええ、最近は彼女の妨害のせいや単に死獣ばかりで結果は芳しくありませんでしたしこの報せは本当に喜ばしい!しかもそれが儂の国の人間となると嬉しさ倍増です!」
上機嫌な法師。
それを見てか面白くなさそうに静かに舌打ちする博士。
「嗚呼、嗚呼!なんと喜ばしき事か!さて、さてさて!一体全体どんな人物なのかお聞かせ願いますか?賢者殿」
「そうだな……ふふ、一言で言えば最速、だろうか?」
彼等三人こそビーストライフ開発者にして電獣の生みの親。
人の身でありながら人を逸脱し人の世から外れし本物の人外達、三世。
〜〜〜〜〜
『静希銀』
・職業、高校生(一年生)
・特徴、灰色の髪に青い瞳。
・趣味、散歩。
・電獣種族、狼。
『星宮翼』
・職業、高校生(一年生)
・特徴、短い黒髪に赤い瞳。
・趣味、人間観察。
・電獣種族、???
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