episode8
階段を登ってくる足音が聞こえる。
音からして死獣じゃなく人間だ。それでもって数は2人。
今になって人が来るなんて少し妙だしもしかしてビルの持ち主か警察か?
だとしたら今はまずいな。不法侵入してるのもそうだが俺の姿を見られるのはもっとまずい。
「人が二人階段を登って此処に向かって来てる」
「……人が?しかも二人?」
「ああ、少し名残惜しいけど人間態に戻るとしようーー」
「ちょっと待った」
「?」
「まだ人間態には戻らない方がいいよ」
「なんでだ?このままだと騒ぎになるぞ?」
俺の当然の疑問に星宮は何故か困った顔を浮かべながら頼み込む様に手を合わせる。
「ごめん!殺さない程度に一回だけ付き合ってあげて!」
「殺さない程度って、なにを言ってーー」
その時俺の耳は確かに聞いたし臭った。
此処に到達した二人の足音そしてーー。
「ーー鉄と火薬の匂い!?」
体の向きを扉のない出入り口に向ける。
するとそこから既に銃を構えた男と女が飛び出して来て銃口を俺に向ける。
マジか!?警告もなしにーー。
そして2人は無言で引き金を引いた。
〜〜〜〜〜
数十分前、男と女は公園で大事な人物から来るはずの大事な連絡を今か今かと待っていた。
しかし……。
「……予定時刻を過ぎたけど連絡がないわね」
女は重い面持ちで言う。
すると同じく、いや女より重い面持ち。まるで大事な者の非法を聞いた様な様子の男は呟く。
「10時30分丁度にこの場所で合流、だったのですが……来ない。遅れる場合は連絡してほしいと念押ししたというのに……」
「どういう手品を使ったかは知らないけど近隣の人間を全員隣町まで移動させて自分は化物に会いに行くと言うし……これなら最初から無理にでもついて行くべきだったわ」
「ええ」
現在時刻は午前10時35分。
予定していた時刻は10時30分。
たかだか五分の経過であるがこの五分は2人の心を苦しめるには十分な時間だった。
よって2人のとる行動は待機から自動的に変更される。
「場所は?」
「GPSを見る限り近くのビルですね」
「了解」
男はスマホを女は懐から銃を取り出し確認する。
「一応聞きますけど他に手持ちの武器は?」
「残念だけど最初に指定された銃だけ。正体不明の化物相手となると正直心許ないにも程がある……けれど」
「ええ、だとしても私達は行かなくてはいけない」
自身達の今ある武力での救出作戦。
例え無謀であってもやるべき理由が2人にはある。
「「全てはお嬢様のために」」
必ず助けるという思いを胸に忠臣2人はビル内部に侵入する。
そしてそこで2人は自身の主人の横に居た狼、つまりは銀を見て主人を襲おうとしていると勘違いして問答無用で引き金を引くのであって。
〜〜〜〜〜
銃弾がこっちに向かって飛んでくる中考える。
あの2人との言葉での解決は……ダメだ。
あの殺気、どちらかが動かなくなるまで攻撃をやめないつもりだ……ならこのままボコって止めるか?
ありと言えばありだが星宮の言葉から考えるとあの2人は高確率で星宮の知り合い。
ならやり過ぎて両方から恨まれるのも後々面倒だからなしだろう。
と、なればだ。
俺のとる選択肢はこうだ。
「倒せないと悟まで避け続けるか」
飛来する銃弾を軽く避けると2人は冷静に続けて俺に発砲しまた避けるを繰り返す。
さて、避け続けると決めたはいいが一体どれだけ続くだろう。心を折るためにこうやって避け続けてるが向こうさんが持久戦前提でやっているなら正直面倒臭いし。
しかし手を出さず終わらせると決めたし、それを破るのは俺の負けの様な気もするし、実に悩ましいーーん?
「っ、素早い!」
「意識を乱してはいけません。焦れば余計弾が無駄になります」
「分かってる!」
おや?なんかあの2人の動きが妙だな。
外した事を過剰に気にしてたりリロードをまるで躊躇ってるみたいに少し遅れてやってる……弾を気にするか。
試しにわざと2人の前で速度を落とし撃ってきたのを伏せを伏して躱す。
「くっ、無駄弾を使わされた」
「ふざけた避け方を!」
へぇ、その良い反応、どうやら弾がそんなにないみたいだな。
勝ち筋が見えた。
ならここからはおちょくりつつ回避だ。
冷静さを完全に奪って無駄弾撃たせてこの球よけゲームをさっさと終わらせてやる。
こうして完全に方針の決まった俺は2人を楽しくおちょくり回す事20分が経過した。
「さて、この辺りで終わりかな」
傍観していた星宮が俺と2人の間に入ってそう言うと2人は歯軋りしながら弾の尽きた銃を落とし膝から崩れ落ちた。
そんな2人を健闘を讃えてか星宮は拍手をする。
「2人とも中々の善戦だったね。静希くん相手にここまでやれるなら普通の電獣になら問題なく弾は当てられるよ」
「散々良いようにあしらわれた後に言われても……」
「不甲斐ありません。まさか擦りもしないとは……それどころか、背後をとられ挙句足を引っ掛けられてころばされるなんて」
心底悔しそうにする2人の肩を笑いながら叩く星宮。
弾は当てられるって言ってるけど倒せるとは言わないんだよな……まぁ、当然だけど。
「で、説明してもらえるか?この2人は誰なんだ?」
「うん、この2人はね。私の護衛の……いや、手下かな?」
「いや、俺に聞かれても……」
なんでそこで悩むのやら……。
首を傾げている星宮から手下らしい2人の方を見ると今にも殺しに来そうな形相を俺に向けていて正直おっかない。
「……えーと、なんでしょう?」
普段の喋り方だと変に刺激するかもと思った俺は敬語で聞いてみるのだが返ってきた返答は辛辣なものだった。
「化け物が」
「馴れ馴れしくお嬢様に話しかけるな。化け物」
「ーーーー」
化け物か……そうだよな。改めて思うと俺、もう普通の人間じゃないんだよな。
別に人間かそうじゃないかに拘る訳じゃないけれどもやっぱり傍から見たら自分達とは違う異物という認識……ちょっとへこむな
「人間だよ」
「っ!」
そう言って星宮は顔に触れながら自分の額を俺の額に軽く当てた。
「君は人間だよ。間違いなくね」
その言葉に胸がじんわり暖かくなるのを黙って感じていると2人は慌てだす。
「お、お嬢様危険です!早くその化け物から離れてください!」
「そうです!今は大人しいかもしれませんがそいつは化け物!人間じゃないんですよ!」
無理もない普通の反応。
しかし星宮はーー。
「ーーそい!」
「いだっ!?」
「っ、お、お嬢様?何を?」
俺から離れるとしゃがみ込んだままの2人へ歩み寄り二人の額にデコピンをした。
「静希くんは化け物じゃないよ」
「し、しかし……」
「あれをどう見たら人間と思えるんですか……」
「じゃあ2人に聞くけど私は化け物に見える?」
「い、いえ?どこからどう見ても、その……」
「人間に、しか見えませんけど?」
「じゃあそういう事だよ。彼と同じ存在である私が人間に見えるなら彼も人間!いい?」
「「は、はい……」」
星宮の言葉に2人は困惑した様子で首を縦に振る。流石は手下と言うだけあるって従順だ。しかし手下2人が星宮と話していた時の反応がどうにも気になる。
話は終わったからか星宮は満足そうに俺の方に向き直る。
「よし!これで一先ず一区切り!そろそろ街の人達が戻って来るだろうし静希くんも一回人間態に戻った方がいいよ」
「ん、あ、ああ」
「「っ!?」」
眩い光と共に体がつくり変わる。
獣化態から人間態へと。
ただそれだけなのに2人が酷く驚いた様子で俺を見ていたのだった。
んん?この反応、やっぱりおかしいよな。初めて目にする訳でもないだろうに……ん?いや待てよ。
そこで俺はようやく察した。
2人の反応の理由に。
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