2日目 海岸

 日も傾きかけた海岸。

 転がるドラム缶を漁る少女に声がかけられる。


「ネコちゃ~ん!」

「ひぇ……また来た……え、へ、へへ、どうしたの、なつみちゃん? わたしあれから何もいいもの拾ってないよ? ほんとだよ?」

「そう? じゃあ、所持品検査でちょっと撃ってもいい?」

「やめてよっ!? なんでそんなひどいことするの⁉」

「うそうそ、そんなことしないよ~。それよりネコちゃん、今夜はどうするの? 野宿するつもり?」

「……どこか空き家を見つけて泊まろうと思ってるけど……」

「それより、自分で家を作った方がいいよ。装備とかジャンクをしまっておけるし、ベッドや作業台もおけるし」

「家とかそんな簡単に建てられるの?」

「木材とか石があればすぐだよ? あたしも資材集めとか手伝ってあげるからさ? ネコちゃんにぴったりのかわいい家を作ろうよ!」

「……え~? 今から? 面倒くさいし、疲れてるから……」


 無言でライフルが構えられ、弾丸のスライドする音が無機的に響く。


「……かわいいお家を作りたいなって、ネコも思ってた!」

「家ができたら一緒に暮らそうね!」


 こうして半ば強引に勧められ、桃園ネコは自宅を建て始めた。

 しばらくの後。

 木製の小屋が曲がりなりにもできている。

 土台や壁は、萌黄なつみが切り倒してきた木を資材としていた。

 今、ネコは小屋内でベッドなどの内装を整えている。

 なつみの姿はない。


「……え? なつみちゃん?」


 ネコは作業の手を止め、顔を上げる。

 小屋の外で足音がしたからだ。

 足音は近付き、遠ざかっていく。

 小屋の周りを回っているようだ。

 と、小屋の扉から鈍い音が響いてくる。

 繰り返されるノック。


「あれえ? 早いねなつみちゃん。もう石を集めてきてくれたの?」


 ネコは扉を開けに向かった。

 苛立ったように鳴らされる扉に急かされるように。

 なつみを待たせて機嫌を損ね、また殺されてはたまらない。

 がちゃり、と鍵を開ける。


「死ね! おらぁ!」

「いだぁっ!?」


 言葉と共に、石で頭を打ち付けられる。

 そのまま倒れ込んだところを馬乗りされ、何度も石での殴打が繰り返された。


「なになになにっ⁉ なんでぇ!?」

「おとなしく死ねぇ!」

「くっそ、またかいっ! やっぱそれかいっ!」


 ネコはダウン状態になった。


「ねえええええっ! なぁんでぇ!? なぁんで殴るの⁉ ……て、あれ?」


 憤慨したネコは大声をあげ、途中で首を捻る。


「あなた、誰?」

「ち、ザコの方か。なつみはどこだ? お前、なつみの手下だろ?」

 覆いかぶさるようにネコの顔を覗き込んできたのはボブの少女だ。

 小柄で身軽そう。

 その少女はネコの所持品ストレージに何やらアイテムを詰め込んできた。

 ダウン中の相手の所持品ストレージは他人が好きに開いて、アイテムを持ち去ったり入れたりできる。


「え? あなた、何してんの?」

「プレゼントだよプレゼント! これ全部やるから」

「ええ? いいのぉ? わあー、ありが……うん〇じゃねーかっ!?」

「ひゃひゃひゃ! うん〇まみれうん〇まみれ!」


 一生懸命何を詰め込んでいるのかと思えば、所持品ストレージが全部埋まるほどのうん〇。

 瀕死のネコは喚く。


「おいっ⁉ いきなり人の家に押し入ってきて頭カチ割った挙句うん〇詰め込んでくるってどういう嫌がらせ!? なんなの!? ねえええっ!」

「これもお前がなつみの手下なんかしてるからだ。自業自得だね!」

「このクソがよぉ……! あ……やばい、死んじゃう……あ、あの、助けて?」

「しょうがねえなあ」


 小柄な少女はネコに手当を施す。


「……ふう。助けてくれてありがと」

「おい、うん〇女。助けたやったんだから、私の手下になれ」

「そうはならんやろ。ていうか、あなた本当に誰なの?」

「私はA組の白鳳院華だ。お前は?」

「桃園ネコ、だけど……」

「萌黄なつみと同じクラスなのか?」

「そう、だよ? ……なに? なんかなつみちゃんに恨みでもあるの?」

「あるに決まってんだろ! あいつ、いきなり私を撃ち殺したんだぞ!」

「……あー……なつみちゃんなら躊躇なくやりそうだけど……ていうか、わたしなつみちゃんの手下じゃないよ?」

「そうなのか? なら、私達2人であいつやっちまわねえ?」

「え?」

「どうせ、お前もあいつにひどい目に遭わされて、ほんとのところ手下扱いされてんだろ? だったら、あいつやって、あいつの持ってるブツ山分けにしようぜ!」

「……でも、なつみちゃん、わたしの家のために資材とか集めに行ってくれてるし、それを裏切るのって……」

「あいつ、ジャンクとかキーカードとか相当抱え込んでるはずなんだよ。絶対、儲かるぜ? あいつをこの小屋に引き込むんだ。私が扉の影から襲うから、そしたらお前もなつみに飛び掛かれ! 2人で不意打ちすれば絶対殺せるから!」

「ひぇ……なつみちゃんを殺す? そんなの無理……」

「お前もなつみに殺されてばっかりで、たまには殺してみたいだろ? あいつ殺してさ、あいつの死体にうん〇詰め込んでやろうぜ!」


 桃園ネコは、殺されてうん〇まみれになった萌黄なつみの姿を想像した。

 それから、白鳳院華という少女を見る。

 あ、この子きっとバカなんだろうなぁ、という確信。

 なんかこの子になら負けないっていうか、勝てる気がする。物理的にではなく、いいように利用できるというか。漁夫の利を狙えそう。

 ふふ、これは手懐けておかなきゃ……。


「……うん〇……なら、いいかなぁ?」


 桃園ネコは気弱そうに微笑んだ。

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ゆるふわデスゲーム。女の子達がノーペイン(痛み無し)・無限復活で一か月間サバイバル生活するだけ 浅草文芸堂 @asakusabungeidou

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