2日目 コンビニ廃墟内②
「あ、帰ってきたー」
「……して! ネコの拳銃返して!」
萌黄なつみは段々と近づいてくる桃園ネコの声を聞いて、呟いた。
そして、ドーン。
「ひぃやぁあああ⁉ やーめーて! 撃たないで!」
「おかえり~w」
ライフルで挨拶。
威嚇射撃にビビったネコの声に、半笑いで応える。
そのままライフルを構えて待っていると、コンビニ出入り口から桃園ネコがうづくまるようにして入ってきた。
「……あの……すいません……ネコのリボルバーだけ、返してくれませんかね……?」
ネコは屈みながら、頭をぺこぺこ下げて来た。
「……あのぉ……他の物は全部差し上げるんで……撃たないでもらっていいすか……?」
「ネコちゃんの持っているものって、あとはチョコバーと石と木材くらいだね? 全然いらないんだけど」
「……しょうがないでしょぉ⁉ ろくなものが落ちてなかったんだもん! せっかくこのコンビニでいいもの拾えるかと思ってたら、この殺人鬼がよぉ⁉」
ドーン。
コンビニの天井から欠片がパラパラ落ちてくる。
白煙上げるライフルを抱えたなつみ、にっこり。
「んん? なんか言った? ネコちゃん?」
「ひゃあぁぁ! やめ、やめてやめて! 撃っちゃダメ! 引き金軽すぎるだろ⁉」
更に銃口を眉間に突きつけられ、ネコが両手を上げる。
「……ですから、ね? ……話し合いましょうよぉ……? 暴力って良くないとネコ思うなあ……?」
「ネコちゃんのそのリボルバー、どうしてそんなに返してほしいの? 何か特別な銃なの?」
なつみがライフルの先で、床に落ちているリュックを指す。
リュックの中には、先ほどまでネコが所持していた装備や食料が一式まとめて遺されていた。
すでになつみはその中身を全て確認している。
とっとと中身を奪って逃げてしまってもよかったのに、あえてネコが遺留品を取り戻しに来るのを待ち構えていたのだ。
「……だって、わたしがあちこち探し回った末にやっと手に入れた唯一の武器だもん! このリボルバー1つ見つけるのだって丸1日以上かかってるんだよ⁉ ネコ、知ってるよ⁉ 武器がないとすぐ殺されちゃうじゃん! 一方的に!」
「経験から学んだってこと?」
「おかげさまでっ!」
ネコは吐き捨てると、一転、猫撫で声を出す。
「ねえぇ、お願いしますよぉ? なつみちゃんはもうライフルを2つ持ってるんでしょう? なら、こんなリボルバー、もういらないよねぇ? 返してぇ、ね? おねげぇします、なつみちゃん、いや、なつみさまぁ!」
「……じゃあ、さ? ネコちゃん、あたしのこと、好き……?」
「……人のこと撃ち殺してきた奴、好きになれるわけねえだろ⁉ バカがよぉ⁉」
ドーン。
今度は当たった。
一発でダウン状態にまでもっていかれるネコ。
「にゃああああ⁉ うそっ! うそです! 好き! もう好きだからぁっ! いやああ⁉ ビクンビクンしてるぅ!? だから、もうやめてっ⁉ これ以上撃たれたら死んじゃう! 死んじゃうよぉ⁉」
「……好き?」
「好き好きめっちゃ好き!」
「……ふふ、ん、じゃあしょうがないなあ。ネコちゃんだけ特別だよ?」
数十秒後。
「……はあ、はあ……死ぬかと思った……ありがとうごぜえます……」
「あたしも鬼じゃないからさあ」
床に這いつくばるようにして礼を言うネコに、なつみははにかんだ笑顔。
「あたしのこと好きって言ってくれた人のこと、悪いようにはしないって。好きって言われたら言われた方も好きになっちゃうもん。だから、はい。そこのネコちゃんのリュック、取っていいよ」
「……え? いいのぉ⁉」
「いいんだよぉ?」
ぱっと顔色を明るくしたネコに、うなずき返すなつみ。
「……やったぁ! わたしのリボルバー!」
「ほら、これも取って。リボルバーの弾」
「え⁉ 30発も!? いいの⁉」
「ネコちゃんのために拾っておいたからね」
「……なつみちゃん!」
「それから回復薬も。取って取って」
「ええー⁉ こんなものまで……! これもいいのぉ⁉」
「うん。だってネコちゃん怪我で死にそうだし」
なんでだろうね。
「ああ~ん! なつみちゃん好き! やったやったぁ! ついにリボルバーが戻ってきたぁ! やはり武力! 武力最高! この手触り、この黒光り、これぞ暴力……!」
「よかったねぇ、ネコちゃん」
「うん! ありがとう! やったやったやったったぁ♪」
無言で、ドーン。
「なんでやねんっ!?」
「あはははは!」
「なぁんでぇ!? なぁんで撃ったぁ⁉ 頭おかし」
ドーン、ドーン。
ひき肉。
「あははははは! あははははははははは!」
桃園ネコは自分の所持品をその場に残して、リスポーン地点へと飛んだ。
15分後。
「あ、また戻ってきた」
コンビニ廃墟の外側から、桃園ネコの怒鳴り声が響いてくる。
「……おいいいいい! さっきネコ、撃たれる要素あったぁ!?」
「いや、あんまりネコちゃんが嬉しそうだったんで、ここで撃ち殺したらすごい面白いかなって……」
「おもしろくねーよっ!? なに言ってんだこいつ⁉」
「えー? あたしはめっちゃウケたんだけどなあ。面白かったよ、ネコちゃん」
「イカれ過ぎだろ⁉ もう許さねえぇっ! 絶対、ぶっ殺しちゃうから!」
「ごめんて、ネコちゃん! もう撃たないから……ぷふっ……も、もう一度、ここまでリュック取りに来てごらん……?」
「撃つでしょう⁉ 撃つ気なんでしょぉ! ネコのこと! 無抵抗で武器も持たない何も持ってない全ロスしたネコのこと、まだ撃つ気でしょぉ! もう、もう騙されないからね!」
「ふ、ふふっ! だ、だって、ネコちゃん、撃たれると面白い声出すんだもん。これはネコちゃんが悪いよ」
「わたし!? わたしのせい!?」
「……あ~、ごめんごめん。今度はちゃんと全部返すから。ね? もう一度、コンビニの中まで取りにきてみなよ」
「うるせえええーっ! 二度と行くかっ! ばーかばーか!」
足音が遠ざかっていく。
「……ありゃ、さすがにもう懲りちゃったかあ。……じゃあ、しょうがないなあ」
なつみは首を振りながら、ネコの遺留品の入ったリュックに手をかける。
それから更に15分後。
「……ギリギリ、かなぁ……?」
桃園ネコはコンビニの中をこっそり覗いている。
「あの殺人鬼、どこかで待ち伏せしてたりしてないよね……?」
言いながら、その目は目当ての物を見つけて見開かれた。
「あったあった! まだ残ってた! 時間切れで丸ごとロストしちゃうかと思ったけど……あとは、あの殺人鬼が中身を嫌がらせで全部持っていっちゃったりしてなければ……!」
ネコはなつみとの接触を避けるため、時間を置いて荷物を回収に来ていた。
どうせ丸腰丸裸だ。
待ち伏せされて撃ち殺されても失うものはない。
自分のリボルバーを取り返せるかもしれない、そのわずかな可能性に賭けたのだ。
そして、その勝負の結果……。
「え!? これ……⁉」
落ちているリュックの中身を確認し、ネコは一瞬言葉を失う。
リボルバーは残っていた。
もらった弾も回復薬もそのままだ。
ただ違っていたのは。
「……チョコバーがリュックいっぱい……! こんなに……! あれ? これメモ帳……手紙?」
『ごめんね、仲直りのプレゼント、大好き』
そう書かれたなつみからの手紙を読み、ネコの頬に僅かな赤みが差す。
「……ええ? じゃあ、いっか……」
ネコはチョコバーにかじりついた。
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