鈍臭い幽霊ちゃんと仲間たち

ぷろけー

鈍臭い幽霊ちゃんと仲間たち

 私は大学の課題であるレポートを終わらせるために、ノートパソコンを開く。電源を入れるボタンを押すけど、画面が真っ暗なままでなかなか立ち上がらない。


 しばらく待ってみると、真っ暗な画面の中から私に向かって白い手が伸びてきた!


 なに!? めっちゃ怖いんですけど!? 逃げなきゃ!


 生を感じさせない冷たい手が私の腕を掴む。その手は力強く、振り払って逃げようとするけど逃げられない。


 え、私どうなっちゃうの? ホラーってもっと暗い時間に起きるはずでしょ!


 画面からできるだけ離れているけど、画面から出てきて私を襲うのは時間の問題だ。


 そんなふうに思ってたけど全然出てくる気配がない。思えば私を掴んでる手もあまり力が入ってない。どうしたんだろうと思って彼女のことを見ると心做し困っているように見える。……長い髪で顔は見えないけど。


 思い切って画面から手を出している彼女に話しかけてみる。


「あの、大丈夫ですか?」


 声をかけたけど、彼女からの返答が無くてすごく気まずい……。


 しばらく待っていると彼女から返答があった。


「……大丈夫じゃないです」


 ものすごく恥ずかしそうに彼女は答えた。まって声可愛すぎない?さっきまでちょっと、いや結構ビビってたけど可愛い声聞いたら、恐怖なんか全部吹っ飛んでいったよ。


「画面から出れれば良いんだよね?」

「……はい」


 ふん!


 私は彼女の腕を掴んで思いっきり引っ張る。人だったら肩が脱臼するかもだけど、幽霊は脱臼とかするのかな?


 ずぼっ! という感じでは抜けなくて、ズルズルズルって感じで出てきた。心做しかグッタリしてる。


 それが彼女との出会いだった。


 ※×※×※


「……先程はすみませんでした」


 さっきのことから少し落ち着いてお話を始めて、最初の言葉が彼女の謝罪だった。


「そんなことはいいの! まずはお互いの自己紹介から始めない? 私あなたと仲良くなりたいの」


 本当に彼女と仲良くなりたいの! だって、幽霊だよ! お化けだよ! しかも可愛いし、きっと良い子だよ!


「……はい、よろしくお願いします」

「それじゃ、私から言うね。私の名前は都筑乙葉です! 地方から上京してきてここで一人暮らししてます! 好きなことはアニメとか映画とかを見ることです! よろしくね」


 思わずでっかい声出ちゃったけど興奮してるから仕方ないよね。彼女は学校で自己紹介したときみたいに拍手してくれた、...なんか嬉しい。


 彼女は緊張しているのかおどおどしながら話し始めた。


「えっと、私は、袴田杏璃です。出身はあの世、です? 高校生の時に死にました。未練とかはない、と思います。こちらこそ、よろしくお願いします」


 なんか自己紹介が衝撃なんだけど!? 高校生で死んじゃうとか速すぎない?


「早速質問なんだけどなんで死んじゃったの? あ、話しにくかったら話さなくていいよ」

「すみません、私もなんで死んだのか、わからないんです」

「死んだ時の記憶がない感じ?」

「いえ、そういう訳ではなくて、何が原因なのか、検討がつかないんです」


 杏璃ちゃんは首を振りながら困った顔でそう話す。うーん、どういうことなんだろう。死因がわからないとか不思議なこともあるもんだね。


「死ぬ前までは何してたの? 私も一緒に考えて見るからさ」

「……はい、えっと、その時は朝起きて、食パン食べて、顔洗って前髪を切ったりしてました。前髪切るの失敗したな、と思っていたら意識が遠のいて、気づいたら死んでました」

「確かに何が死因かわからないね……」

「あまり、気にしてないので、大丈夫です」


 本当に死因謎だね! 私的にはまだモヤモヤするけど、杏璃ちゃんが気にしてないって言うし、もういっか。


「それじゃあ他の質問! なんで私のパソコンから出てきたの?」

「私は前から液晶から出てきて人を驚かせたいと思っていたんです。それは大先輩であり尊敬している方の影響を受けて、かっこいいな!と思ったからです! 幽霊仲間には古典すぎって笑われてしまうんですけど、テレビから出てくるあの方のことかっこいいと思いますよね?」

「うーん、あまり幽霊をかっこいいとかの観点で見たことないからわからないかな。私は幽霊仲間さんのことが気になるけど。仲間はどんな事してるの?」


 杏璃ちゃんは饒舌に先輩の話をしていた。なんとなく大先輩のイメージは分かる気がするけど、見たことないからわからないね。後で映画借りてこようかな。


「幽霊仲間の佐藤さんはバッテリーの消耗を早くしてます。田中くんは、SNSの通知を一時間だけ止めるとかしてます」

「佐藤さんと田中くん、なんか微妙に嫌な事するね……」

「最近になって冥界のルールが変わって、大規模なことはしないように、って事になったんです」


 へぇ、あの世にもルールとかあるんだね。それだったら好き勝手できないね。


「ルールあるんだね。なんでルール変わったの?」

「よくわからないんですけど、冥王さまに、あまり人前に姿を表さないようにしてください、って言われたんです。だからこうして話してるのもあまり良くな――」


 話している途中で杏璃ちゃんが突然消えちゃった! 冥王さまとか、気になることたくさんあったんだけどなぁ。多分、冥界のルールに触れちゃったんだね、なんか抜けてるところがある子だったし。

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