第4話 黒塗りの証拠

 【五十嵐 家】

「―ここは、私に任せてくれませんか!?」

 佐々木さんと山尾さんに無理言って、育ての親を説得すると決めたのだ。

「だ・・・大丈夫なんすか?」

「はい。」

 そう言って、私は五十嵐家の両親へ行った…。


「すいません。少し、お時間を―。」

「何よ!アンタ達は帰って!!」

「・・・。」

 普通だったら、この時点で匙を投げるところだろう。―けど、私のやり方だったら、

「・・・貴方達は何故、産んだのですが?」

「は?それが―」

「聞いた話では、「男じゃないと、良い大学へ行かせられない。」と聞きました。・・・そんなに必要だったんですか?男の子が。」

「あんたらに何が分かるんだ!今の時代は―。」


 ―私は、話の途中で、その場にあったローテーブルを蹴飛ばした!

「!」

「・・・犯人は、警察署を襲った”主犯格”です。―これが、貴方達が望んだ「大学へ行かせる子供」ですか?」

「・・・。」

 そう強く言うと、五十嵐夫婦は黙ってしまった…。

「・・・山尾さん。本当に、成美さん任せで大丈夫なんすか?」

「それは、すぐに結果が分かるわ。」

 山尾さんが言う通り、そう時間はかからなかった。


「・・・ほ、本当は・・・んだ。」

「ちょっとアナタ―。」

 旦那さんは、ボソボソと言い始めた…。

「―確かに、男は欲しかった。・・・だが、有志大へ入った途端、成績が著しく悪くなった・・・!私は、「何で成績が悪くなった!」と問い詰めたが、逆上して、殴られてしまったっ・・・!」

「家庭内暴力が起きたんですね?」

「・・・。」

 旦那さんは、ゆっくりと恥を忍んで頷いた…。

「・・・申し訳ありませんが、”受精卵提供者”について、お話を伺っても?」

「わ、分かりました・・・。」

 そう言うと、旦那さんは、おぼつかない足取りで、2階の書室へ案内し、本棚の後ろに入れていた”封筒”を差し出した。

「そ、それが、”受精卵提供者”の・・・!?」

「―何かあった時に、告発出来るように、念の為、書面で交わしました。」

 その封筒を私に差し出し、中を確認した。―中には、クリアファイルに”1枚の書面”が入っていた。

 佐々木さんは、直様タブレットで、見比べた!

「・・・間違いないっすね。―”卵子・精子提供者”の情報と一致しました。」

「・・・山は動いた。」

 ようやく一歩前進した!…と、思った矢先だった!


「早く・・・此処から逃げたほうが良い。」

「え?」

 そう旦那さんが言うと、書室の窓から、細長い弾丸が飛び出し、頭を撃ち抜いた!

「!」

 …旦那さんは、即死だった。

「皆!避難しろ!!―外にいる奴らもだ!!」

 直様、刑事達は慌てて、階段を降りていった!!…残されたのは、私と佐々木さん、山尾さんだった。

「ちょっと待って。・・・旦那さん。何かポケットに入れてる。」

 山尾さんがズボンのポケットを調べ始めた。…入っていたのは、”USBメモリー”だ。

「山尾さん。これって・・・?」

「きっと大事な物よ。・・・絶対に、これを守りましょう。」

 USBメモリーをジャケットの懐へ隠した。


 【数分後】

 旦那さんは、ブルーシートに守られながら、救急車へ運ばれ、奥さんも同乗した。

 刑事達は、状況を説明し、マスコミや野次馬を追い出した。

 …何とか安全に避難させ、『桜』班は、行動を開始した!

「佐々木。タブレットに保存した?」

「はい!・・・書面はバッチリっす!」

「じゃあ、この書面を所轄へ渡す。―USBメモリーは、私達で解析しましょう。」

 山尾さんは、書面を所轄の刑事達へ渡した。

「それにしても、さっきの成美さんはすごかったでっすね!」

「?何がですか?」

「だって!あんな迫力のある説得、見たことありませんもの!」

「・・・に、同じ様な事させられましたからね・・・。」

「へ〜・・・。」

 納得する佐々木さん。―山尾さんが帰ってきた。

「2人共!早速だけれども、一旦、班長に報告と、USBメモリーの中身を調べましょう。」

『はい!』

 私達は警視庁へ戻った…。


 【警視庁・特殊犯罪班『桜』室】

「―これ、解析するんですか〜?」

 眼鏡をかけ、ボサボサ頭の女性が、頭をかきながら、面倒くさそうに言ってきた。

「お願いだって『二坂』〜。―大事な情報が入っているんだから。」

 『二坂』さん。―”独学”で、プログラミングを習得した”一般公募”の人。佐々木さんとは年齢も採用時期も”同期”だ。

「お願いだから、二坂。頑張ったら、何か奢るから。」

「・・・山尾さんが言うのなら、仕方ないですね。」

「何だよ!俺の方が、階級『警視』だぞ!」

「・・・社会的通念と客観的視点から考えたら、そんなの信頼の証拠にはならないけど?」

「くぅ〜!憎たらしいぃ!」

 佐々木さんは、悔しそうにしていた。

 そんな中で、二坂さんは、お手性の”ゲーミングPC”にUSBメモリーをさして、解析を開始―。

「―出ました。」

「早っ!?そ、それで?何が出たんだ!?」

「今、スマホに送りますよっと・・・。」

 二坂さんから送られきたのは…複数枚の画像だった。

「これは”写真”ね。・・・老けた男と、若い女が出ているわね。」

「一応、犯罪者データベースには引っかかりませんでした。―SNSやマスコミの映像や写真も同様です。」

「そりゃあ・・・”官僚”で、表沙汰に出ることは無いからだろ?」

「佐々木。本当に爪が甘いよね。―そんなんでよく『警視』になれたね。」

「な・・・!」

 二坂さんが解説する。

「・・・良いですか。こうして、何者かが分からない以上は、”慎重”に調べた方が良いと思います。―『出る杭は打たれる。』急ぎすぎて、情報を掴んだ途端に、BAN・・・ですよ?」

「それって・・・”消される”って事?」

「BING!―山尾さんは、勘が良いですね。

 私達警察官が知っている情報は、『60代実父・20代実母』と”書面”だけ。・・・つまり、以外は私達しか知らないって事になります。」

 ―しかし、問題が2ある。まず、この”画像”は、まるで”証明写真”の様に撮られている事だった。あの、青い背景に、真っ黒なスーツ…。それ以外の特徴は無い。

 2つ目は、”受精卵提供の書面”には、至るところが黒塗りされている部分がある。―目星で判明できるのは、『6・男』『2・女』と部分、『小次郎』と言う子供の名前のみだ。

「書面に記載されている事で、分かる部分って・・・。」

「そこまでは、自分の足で稼ぐか、デスクワークで頑張って。警視さん。」

「ムカつくな、お前・・・。」


 そんな中でも、私達は見つける事が出来るのだろう…?


続く…。

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