第3話 成美のゆらぎ

 【数年前 特殊犯罪者用・東京女子刑務所内】

 私は今日、ここで死ぬ。手錠と綱に繋がれ、絞首台へ向かう…。

「やーれ!やーれ!やーれ!!」

 ヤジが飛んでくるが、私は気にしなかった。―だって。もう、私は”生きる糧”はもう無くなったのだから…。


 ―しかし、連れてこられたのは、絞首台がある部屋ではなく、”殺風景で、パイプ椅子と机がある部屋”だった。

「―そこ座って待て。」

 刑務官の指示通り、私はパイプ椅子に座った。―その時、手錠と綱は外された。

(・・・。)

 私は、頭がよぎった。―死刑執行前に、何か最後、好きな物を口にする事が出来ると言う話だ。

 …だが、実際は違った。部屋の奥から、男がやって来る。私のから見れば、”頼りなさそうなおっさん”と感じた。

「―いや〜。ごめんね?待った?」

「・・・別に。」

「まぁ、「話したい事がある。」って事は、そう簡単にはいかないよね。」

 何だが、面倒くさそうなおっさんだ…。早く終わらせたい。

 ―そんな時だ。


「―君。”警察官”に興味はないかい?」

「へ?」

 …何を言っているんだ?犯罪者が…”警察官”へ?

「千國警部。以前話した事と全く違うのですが―。」

「そうだよ。最初っから嘘ついたのさ。」

「!困ります!もう、法務大臣の―。」

「―それは、。実際は、だ。」

「なっ!?」

 刑務官は驚きを隠せられなかった。おっさんは、話を続ける。

「―で?どうだい?やってみたくはないかい?」

「・・・私は、”殺す事以外”は教えてもらってない。」

「知ってるよ。―君は、『自閉症スペクトラム障害・ADHD・学習障害』を持っていて。此処へ来て、常識どころか、字も書けない事も知っている。」

「じゃあ、何で私が―。」


「君が・・・必要なんだ。”善人の皮を被った真人間”よりも。」

「・・・。」

 殺風景な部屋で、肌寒いのに、脂汗が出た…。


 【現在 警視庁・特殊犯罪班室『桜』】

「・・・。」

「どうしたんですか?成美さん?」

「!―佐々木さん!?け、怪我はもう大丈夫なんですか!?」

「全然平気です!元々、大学まではサッカーをやっていた”体育系”なので、体はピンピンしてるっす!」

(”体育系”でも、怪我する事件だったと思うけど・・・。)

 佐々木さんをしょんぼりさせないように、言わない事にした。

「そういえば、あの青年の名前が分かりましたよ。」

「えっ!」

 そう言って、タブレットで見せてくれた。

「え〜っと・・・。名前は、『五十嵐 小次郎』。まだ、22歳の大学生。―そして、DNA検査の結果、『デザイナーベビー』だと分かりました。」

「『デザイナーベビー』・・・。」

「それも、すごいっすよ!―母親と父親は共に”有志大”!・・・でも、それは、”卵子・精子提供”で生まれた子で、育ての親は、普通でした。」

「・・・つまり、”名門大出身の遺伝子”を組み合わせた子供って事?」

「そうです!―あいつが、「エリート組だ!」って言っていた意味が分かったすね。」

 ―けれども、佐々木さんは暗い表情をしていた…。

「?どうかしたんですか?」

「・・・いや。―今の時代は、『多種多様』な生き方が尊重されているのは知ってるっす。・・・だけども、そこまでして”完璧な子供”が欲しいんすかね・・・。」

 佐々木さんはそう語った…。だけど、我に戻った。

「―いけないいけない!成美さん!―これから、育ての親に、”裏取り”と”ガサ入れ”を行うんすけど、行きますか?」

「勿論です!」

 なんか、佐々木さんの顔を見てたら、自分も暗い事考えている暇は無いと思った。


 【五十嵐 家】

 ―既に、マスコミや野次馬が集まっていた。

「カメラ・・・大丈夫っすか?」

 佐々木さんから、帽子を渡されたが…。

「平気です。―行きましょう。」

 シャッター音…陰口…指を指す行為。―本当は、”怖い”。けど、我慢するしかない。起こった事は取り消せないから。


 ―家へ入ると、刑事達が沢山居た。だが、育ての親は、何も表情を変えなかった。

「・・・あの。大丈夫ですか?」と女性刑事が問いかけると、母親がこう返ってきていた。

「大丈夫です。・・・けど、何でんですか!?」

「!」

 …完全に、”他人事”の様に言っていた。

「申し訳ありません。しかし―」

「「しかし」じゃないんだ!俺達が何かしたか!?とは、血が繋がってはいない!関係無いじゃないか!!」

 父親も、他人事の様に言う。

「・・・完全に”毒親”っすね。」

「・・・。」

 こんな時だが、『桜』班のメンバーと出会った。


「おや?佐々木君に、みちるちゃんじゃない。」

「あ!山尾さん!」

 『山尾』さん。女性刑事で、『桜』班のメンバー。ボーイッシュで高身長の格好良い女性だ。

「みちるちゃん。それより今日は、大丈夫なの?」

「大丈夫です。・・・それにしても、この家庭は何ですか?」

 山尾さんが解説してくれた。


「―この家庭は、”2人の姉妹”が居るのだけれど。・・・でも、頭の硬い両親のせいか、「男が居ないと、良い大学いれても、何も意味はない!」って突っぱねちゃったらしくて・・・。だから『五十嵐 小次郎』を産んだ可能性があるんだけれど、その”遺伝子提供”の証拠が出てこないの。」

 ここで、佐々木さんは疑問をぶつけた。

「―でも、話によれば、DNA検査では”実の両親”は判明しているのですよね?」

「・・・そうなんだけど。―詳しいところまでは読んだ?」

「え?」

 ―再びタブレットで確認すると…?

「な・・・なんじゃこりゃ!?」

 佐々木さんが驚くのは無理もない…。詳細を見ると、実父は”60代”。実母は”20代”と書かれていたのだ!

 …しかも、実父・実母は”官僚”だ。

「読んで分かる通り。完全に、おかしな状況になってしまっているの。『桜』班に”捜査権限”があっても、政治家が潰しに来る。」

「そ・・・そんな!」

「『五十嵐 小次郎』が、警察署へ何故来たのかも、”裏取り”は取れていないし、育ての親も話さない。困った状況よ。」

 あんだけ騒がせた奴が…”野放し”にされる可能性が!?―私の脳裏に、そう過ぎった…。


「・・・すいません。山尾さん、佐々木さん。―ここは、私に任せてくれませんか?」

「えっ?みちるちゃんが!?」

 私は1回頷く。―作戦は無いが、話したい事はあるのだ。


続く…。

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