第17話

「これからもよろしく、ってことで、良いのよね?」

 真宮家に円とハナを送った帰りだった。街灯が照らす夜道を、俺とミケの二人で歩いている。

 日曜日の真夜中の住宅街。俺ら以外に道に人影はなかった。

 もう寝てしまった人が多いのか、民家から団欒の声が聞こえてくるということもない。

 遠くを走る車の音が微かに聞こえるくらい、静かだった。

 そこにぽつりと、不安に揺れるミケの声がしたのだった。

 その理由は何となく分かる。

 俺は、ミケが人間の姿でいることをひとまず認めたわけであるが、人間の姿を保つためには『祓い』を定期的に行う必要がある。

 その『祓い』の初回の今日。あと一歩で円とハナに危険が及ぶところだったのだ。

 俺が『祓い』を継続するのを危険だと判断して、やはり人間の姿でいるのは止めようと言い出すのではないかと、ミケは危惧しているのだろう。

 まあ、実際、危ないから止めたほうが良いんだろうな。俺はケガレについて何も知らないから、どれくらい危ないのかさえよく分からない。

 理性の上ではそう分かっているのだが。しかし俺の胸は高鳴ってしまっていた。

 静かで暗い道を二人でゆっくり歩いているだけなのに、鼓動が収まらないのだ。

 これから、何かが始まるのだろうという期待が、俺を前へと進ませていた。

 久しく忘れていたような感情だ。

 人間の形をしたミケと出会って、俺の世界は何かが回り始めている。

 猫が人間の姿になって飼い主とコミュニケーションを取るだなんて、道理に反している。常軌を逸している。

 ――でも、そんな非日常をまだ続けていたいと。俺は明確に思っていた。

 この愛猫ならきっと、俺も知らない俺を、これからどんどん見つけてくれる気がするのだ。

「そうだな。しばらくは、街のヒーローってことで、お互い頑張っていこう」

 俺からの返事に目を見開くミケ。瑠璃が零れてしまいそうだ。

 しかしすぐに目尻を下げて、ミケが微笑む。

「ホントは、かわいい女の子とまだしばらく一緒に暮らしたいな~って思ってるんじゃなくて?」

「言っとけ」

 俺は前を向く。自宅は、もう目の前だった。

 俺にとってミケは、一言で言えば大事なペットだ。

 そして正直に言えば、今のミケのことをかわいい女の子だとも思っている。

 自分でも、彼女との関係がどういうものなのか、まだ全く掴めていない。

 だが。


 これからも続く非日常が、彼女との距離を教えてくれる気がした。

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