番外編

今週は作者が忙しく本編が間に合わなかったので、番外編をお送りします。

あくまでも本編とは無関係で、もしかしたらこんなこともあったかもしれないな、という仮のお話です。


 いつものように夕食を食べ、俺がリビングでのんびりとテレビを見ているときだった。

 リビングにおいてあるパソコンに向かって何か調べ物をしていたミケが、突然こちらをガバッと振り返ってくる。

「そういえば、私ってあんたの小さい頃のことって全然知らないのよね」

「去年うちに来たんだから、当然だな」

「人間って、写真っていうものに昔のことを記録しておけるらしいじゃない? あんたの小さい頃の姿の写真はないの?」

「急にどうしたんだよ……」

「な、何となく見てみたくなったのよ。いいじゃない、別に」

 俺から視線を逸して、壁の方を見るミケ。

 自分の昔の写真を見られるというのは、何となく恥ずかしいものだ。理由もなく見られるのはあまり愉快ではない。

「なに、恥ずかしいの?」

 俺の様子を面白がってか、こちらを流し見るミケの口角が少し上がっていた。

 そう言われてしまうと、こちらにもプライドというものがあった。

 乗せられているような気がしないでもないが、男には引けないときがあるのだ。

「分かったよ、見せてやるよ。別に減るもんじゃないしな」

 俺もミケの隣に立って、横からパソコンを操作する。家族の昔からの写真は、このパソコンの中に保存されているのだ。

 適当に十年近く遡って、小学校低学年くらいの頃の写真を画面に映し出す。

「ほら、これなんてどうだ?」

 家族で旅行に行ったときに撮った写真。その中で俺は、ヤンチャに笑ってピースサインをしている。

「……」

 せっかく見せてやったというのに、ミケからは何の反応もなかった。

「――おい? ミケ聞いてるのか?」

 顔を覗き込むと、彼女の瑠璃色の瞳は大きく見開かれて、ぷるぷると震えていた。

 そしてようやく、絞り出すように。

「か、かわいい……」

 一単語だけ口にする。

「か、かわいい!?」

「あんたにも、こんな無邪気な時期があったのね。それなのに今となってはこんなに死んだ目になって……」

「死んでないが?」

 ご希望に沿ったというのに酷い言われようだ。

「他にも見せなさいよ。これくらいの頃のあんたの写真」

「えー……」

「いいから、早く」

 渋る俺からマウスを引ったくると、ミケは自分で写真を次から次へと開いていく。

「これは?」

「おじいちゃんちに行ったときのやつだな」

「これは?」

「あー、初めて逆上がりができたときのやつだ」

 まるで新しいオモチャを与えられたときの子供のように――事実そうなのかもしれないが――、目を輝かせるミケ。

 一方の俺は、昔の写真を漁られて恥ずかしいやら何やらで、口が重くなる。

 そんなやり取りが数回続いて。新しい画像を開いたときに、急にミケの手が止まった。

「――これは?」

「運動会の写真だよ」

 その写真には、俺の隣で当時クラスメイトだった円もピースしていた。

「へえ、そうなんだ」

 急に、ミケの声色が氷点下に下がった気がした。

「じゃあ、これは?」

「真宮家と三神家で、ハイキングに行ったときの写真だな」

「ふーん、そう」

 そこでミケは写真を画面から消すと、マウスから手を離す。

「つまんないからもういいわ」

 え、さっきまでめっちゃ楽しそうにしてたよね???

 豹変した態度についていけない俺。

 やっぱり、猫の気持ちは分からん……

 


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