第4話 ピリス・アイスクラー
「私の名は、ピリス・アイスクラー。ピリスでいい」
夜の帳の中、煌々と照らす焚火を囲みながら黒髪美女がポツリと言った。
夜は魔物も活発化するとピリスに言われ、森の中で夜が明けるのを待つことになった。
森の中には小川も流れており、ピリスの携帯食もあって水や食料に困ることにはならなかった。
「俺は杉山武光、えーっと地球にある日本にいて仕事していた帰りに」
「気が付いたらこの世界にいた。死して生まれ変わったのだろう?」
焔色に照らされたピリスは聞いたかのように気怠そうに答えた。
なんだろう……もうちょっと意外な感じで接してもらいたいな、転生したのだから。
「ピリスさんは、軍隊とかの人なんですか?」
「……ピリスで良いと、言ったが?」
不満げな目をこちらに向けてきた。
この人は、冷たいんだかフレンドリーなんだか分かり辛いな。
「じゃ、じゃぁ、ピリスは軍人?」
「……エレメントマスターだ」
「おお、さっき使っていたあの感じかぁ、魔法使いってわけね」
「違う!」
急に声のトーン高めで、子供のようにムッとした表情となり否定してきた。
「エ・レ・メ・ン・トマスター! 魔法ではなくエレメントを修める者だよ。魔法みたいに不安定で非科学的な神秘ではなく、人の叡智によって支配された神秘、それがエレメントなのだよ、わかるキミ?」
憤然と立ち上がり身振り手ぶりをしながらの説明に、「お、おう」としか言えない。
顔も体もパーフェクトなのに、中身が残念系かぁ……。
「キミと私が言葉を交わすことが出来るのもエレメントギアによる作用なんだ、キミたちの世界にはこういう便利な物はあるか?」
「えっと、最近は、イイ感じのも」
「無いでしょ!? え!?」
剣が蛇腹ってるぅー!
「はい、無いです!」
こえぇぇぇ、人格変わりすぎだろ。魔法って言葉は地雷臭いな。
「エレメントは、マナの運用を適切に行うため研究を行い、教育を施し、現場でのフィードバックを繰り返す。科学的に統計に基づき再現性を求めることが重要なのだ。エビデンス・ベースド・エレメントあってこその神秘であり、人智。まぁ、頭が固い連中はマニュアル化させることと勘違いしているが、そもそも」
早口でまくし立ててきた。
魔法だエレメントだと、地球の常識とかけ離れた異能力な話で若干ついていけないが、ただ、似たような事を医者とたまに議論していた事を思い出す。
どこの世界にもこの手の制度によるしがらみってやつがあるものだ。
「ピリスは魔法が嫌いってことなの?」
「……好き嫌いの問題ではないさ、魔法には科学的根拠が乏しく再現性に欠けることが危険だと言っているのだよ」
「つまり、魔法を使う人間によって効果が違うからダメってわけだ」
「そう、魔法使い達は知識や技術を公にせず、限られた者たちだけに伝承し、理論体系を明らかにしない。故に普遍化にいたらず、制御できない神秘なのだよ」
「それって逆に魔法は危険だから普遍化させないんじゃないの?」
ピリスは眉をひそめ「……確かに、ケイラスの異常も」と一人でボソボソ言いだした。
「そもそもだけど、エレメントは本当に制御出来ていると言い切れるの?」
切れ長の目がギロリと俺に向けられる。
おっと、これはマジ怒りだ、言いすぎたか。
「……キミはこの世界の人間では無いから一つ一つ説明しなければいけないが、そこまでするつもりはないし、それ以上知る必要もない」
重苦しい沈黙の中、焚火の薪がピシピシと音を立てた。
やばいやばい、日本じゃないのだから議論しちゃダメだ。
これも職業病か……こういう時は話を変えてしまおう。
「と、ところで、さっきは倒れたあとに白髪で光の粒子になりそうだったけど、今は大丈夫なの?」
ピタリと時間が止まったかのようにピリスは動かなくなった。
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