05
「どういうことだ、おまえら!!」
見覚えのある三人組。
前回の模擬戦のとき、俺がニレットに勝ったときに「インチキだ!」と叫んでいた。リーダーはちょっと小太りだがすばしっこいガンテ。残りの二人は……名前なんか覚えてないくらい弱いが、ガンテの横で威張り散らしてた記憶がある。
ガンテは杖を握っている。お得意の風魔法を放ったのだろう。
「ネフィリア様がいけないんですよぉ? 公爵家長男のこの俺を振っておきながら、そんな《痣持ち》の男なんかとパーティなんて組むなんて」
にやにやとした下卑た笑いを浮かべて、うずくまって動けない俺達を見下ろす。
地面についていた俺の手が、ガツンッと踏まれる。うめき声をあげた瞬間、ガンテによって放たれた魔法が俺の腹をえぐった。
「あぁぁぁああッッ!!!」
「アハハハ!! いいねぇ、奴隷にはお似合いの声だよ」
「って、てめぇ……なにしやがった」
「簡単なことだよ? 悔しいけど、おまえたち二人は俺より魔力も強いしそれなりのアビリティもある。だが、それはあくまで13歳なら天才、という話だろう? 頼んだんだぁ、親に。むかつくやつがいるから、懲らしめてくれってさぁ。金を積んだら、喜んで罠を仕掛けてくれたよ」
「なっ──」
俺の体が痺れているのは、設置された罠のせい。
わざわざ俺を痛めつけるためだけに、ネフィリアが危険にさらされたのか?
「あぁ、美しいですねぇ」
そう言って俺の見ている前で。
ガンテはその太った指先でネフィリアの
「皇帝の美姫は、公爵家長男のこの俺こそが伴侶にするにふさわしい」
「い、やっ…………!」
滅多に弱音を吐かないネフィリア、初めて俺に見せる表情。
助けを求める、表情────
「俺のネフィリアに触るんじゃねぇ、カスがっ!!」
体にまとわりついていた痺れなんて、構うものか。
俺は怒りのまま、ガンテの頬面めがけて殴り飛ばした。吹き飛んだガンテは、勢いよく木の幹に激突。大量の地を吐き出して沈黙した。
「はぁ…………はぁ…………っ」
そして、また運の悪いことに。
洞窟の中にいたはずのミノタウロスが、崖の下からこっちを見上げていた。
怒りの咆哮をあげて、ドンドンッと壁を殴っている。
登ってきそうな勢いだ。
「が、ガンテ様が用意したミノタウロスだ……」
「んだとぉ!!? 詳しく事情を説明しろ!!」
取り巻きの少年の胸ぐらを掴んで、俺は唾がかかるくらい顔を近づけた。
相手は顔を真っ青にしている。
「お、俺だって本気だと思わなかったんだ!! ちょっと痛い目を合わせるだけって! ま、まさか、あんな化け物……」
「なんで公爵家がミノタウロス飼ってんだよ!!」
「俺だって知らないよぉ!」
「クソがっ!」
思い切り胸ぐらを放して、取り巻きの二人をにらみつける。
「俺に殺されたくなかったら、さっさとあのクソキモいデブを連れてペトラディカ教官を呼んでこい!!」
「は、はぃぃいいいいい!!」
正直、ネフィリアに手を出そうとしたガンテは許せない。
殺してやりたいくらい憎い。
だが、殺せば一発退学……それどころか死刑もありえる。二度とネフィリアの隣に立つことは出来ない。それだけは絶対に嫌だ。
「ネフィリア、大丈夫か!?」
うずくまっているネフィリアを抱き起こす。
まだ痺れは残っているようだが、ちゃんと息も出来てるし、手足も動いている。
心配はいらなそうだ。
「おまえはまだここにいろ」
「あなた、は……?」
「俺は、ペトラディカ教官が来るまで、あのミノタウロスが崖を登ってこないように相手をする」
「ミノタウロス相手に一人でですか!? 無謀すぎます!! しかも、暗くてほとんど見えていないのに!!」
「大丈夫、死なないように立ち回るから。俺、入試の実技は一位だったんだぜ?」
「……そ、んなこと言ったって」
「じゃあ、ちょっくら行ってくらぁ!!」
「オルヴィ!!」
ネフィリアの声に背を向けて、俺は暗い崖を飛び降りた。
びちゃんっ、と川の水が俺の足にまとわりつく。
浅いかと思っていたが、膝くらいはある。
俺は、目の前に立ちはだかるミノタウロスを見上げた。
ミノタウロスはかなりお怒りのご様子。
怒りの咆哮をあげながら、足で地面を叩きつける。
重みのある地響きが聞こえた次の瞬間、巨大な野太刀が俺の目前にまで迫っていた。
頭を下げる動作で回避し、その勢いで地面を踏み抜いて特攻。
すれ違いざまに横腹を裂くと、ヤツが呻いた。
「ダメです! ミノタウロスは首を狙わないと無限に回復します!」
「バカ、顔を出すな!!!!」
ミノタウロスの視線が、崖の上にいるネフィリアへ。
腹を震わせるような重低音の咆哮とともに、ミノタウロスが腕を振り回す。
何をする気だ!?
恐れていたことに、奴は持っていた野太刀をネフィリアがいる場所めがけて投げ飛ばした。
巨人の
──ネフィリアとともに。
「ネフィリアぁぁあああ!!」
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