04
ドゥルソリヤ魔法学院の定期試験は、他の学校とは一味違う。
筆記にプラスして、現地派遣を含めるからだ。
二人以上五人以下でパーティを組み、迫りくる魔獣どもを蹴散らしながら、指定された宝具を持って帰る。
棄権せずに宝具を持って帰れるかどうかで点数がつくが、上位五チームにはボーナス得点が付くらしい。上を狙うチームは今からやる気満々で、注意深くライバル達を見つめている。
けれども、全員が闘争心むき出しってわけではない。
本校はあくまでお坊ちゃまお嬢様学院。
揃いも揃って騎士を目指しているわけではなく、名門校だから卒業するのは当たり前というスタンス。親に言われたから、親戚に言われたから、そんな感じだ。
特に13歳なんて、先日まで温かいお家の中で愛でられてきた影響がもろに出ている。
「怖いよー!! 帰りたいよぉ」
「む、無理だ! だってお父様とお母様には、暗い道を通ってはいけないと教えられてるんだ!! 僕は棄権する!! こんなの、伯爵家の次男がするものじゃない!」
「わ、わたしも……。筆記試験の成績、そんな悪くないし」
続々と教官に棄権を申し出る生徒たち。
慣れない外、獣臭い匂いと夜の雰囲気におびえて、大抵の生徒は腰を抜かしてしまう。俺だって、貴族だったらそうなっていた。
まぁ、中には全然怖がらない女もいるんだけどね。
「ね、ネフィリア様!! わたし、もう無理ですぅ!」
「えーん、お家に帰りたいよぉ!」
「私の背中に隠れていてください。大丈夫、私がみなさんをお守りしますから」
「「「ネフィリア様ぁあ!!」」」
すげぇ。
ネフィリアの背中に隠れようとする女子の数は優に十人以上。みんなに慕われている学年一位様はやっぱ違う。
しばらくして。
「はい、注目!!」
初老のペトラディカ教官が、
「これより定期試験、実技部門を開始いたします! いいですね、これより先に棄権すると減点扱いになります。もう棄権する者はいませんね!」
しーんっ、と。
ここにいるメンバーは全員参加者らしい。
それを見たペトラディカ教官は、大きな杖でガツンッと岩肌を叩いた。
「ルールはさきほど説明足したとおりです。みなさん、パーティは組み終わりましたか?」
俺には、一緒に定期試験を乗り越えてくれる者はいない。
表立って俺と一緒に行動したら、痣持ちと一緒にいたことが噂になるからだ。
好んで組むやつなどいない。
「あの、一人ですか?」
「え? いや、そりゃそうだろ。俺は今でもみんなから敬遠されるんだぞ」
凛々しい修剣士を身にまとったネフィリアは、俺に対して「ならちょうどいいですね」と小さく笑む。
「私と一緒に行きませんか?」
「このあいだの実技のときも言ったけどさ、取り巻きB子ちゃんは? いつも仲良さそうにしてるじゃん」
「残念ながら、みなさん棄権してしまって……」
ネフィリアの見つめる先で、ガタガタ震えるお嬢様たち。まぁ、そうだよな。
「私一人だけですが、不満ですか?」
「むしろ良かったよ。俺も、変に三人以上になってハブられるの嫌だし」
ネフィリアだって、俺と二人でなければ別のやつと喋るに決まっている。
皇帝の娘と奴隷上がりの俺。
傍から見ただけでも違和感が半端ない。
「では、行きましょうか」
「あいよ」
教官に持たされた懐中魔法灯の明かりをつけて、軽く走り始める。
俺とネフィリアの意見は一致している。
上位5チームに入ってボーナスゲットだ。俺はもっと上にいって、奴隷というハンデを覆すくらいの強烈な成績が必要なのだ。でないと、とてもじゃないけどネフィリアの隣には立てない。
「魔獣のレベルは大したことないな」
「低学年向けですからね。仕方ないですよ」
俺もネフィリアも、この程度ならあくびしながらでも倒せる。
安心感、というのだろうか。もちろん彼女が実力者という意味もある。けれどそれより、一緒にいて心地いい。ずっと隣でこうやって歩いていたい。
他愛のない話で盛り上がって、変なことで喧嘩して、面白い映画で笑ったり、泣いたりして。
子ども、三人くらい欲しかったなぁ。
俺、子どもが大好きなんだよなぁ。
「────伏せて」
「いでぇ!!」
強烈な力で頭を押さえつけられたもんだから、思わず漏れたそんな声。
なんだなんだと顔をあげてみる。
「崖の下。あれ、なんだと思います?」
「ん……?」
不自然に前に突き出た鼻は、まるで棒で殴られたかのような団子状。丸太を思わせる膨れ上がった上腕二頭筋と、逆三角形の体が月夜に照らされてぼんやりと浮かび上がる。
ぼふぅ……。
かの荒い鼻息は、何に対する苛立ちなのだろうか。
錆びた野太刀を肩で担ぎ、暗い川を渡って、向こう岸の闇へと消えていく。
「ミノタウロスッ!? ここ、弱い魔獣しかいないんじゃなかったのかよっ!?」
こんな森にいるはずがない。
しかも、なんだあのデカさは。三メートルは優に越していた。
「幸い、こちらの存在には気づいていないようです。いい機会です、今のうちに教官に知らせましょう」
肩から提げていたショルダーバックから、小さな花火を取り出すネフィリア。
緊急時に教官の助けを求めるものだ。
これを使ったら棄権したようなものだが、あんな化け物がいるなんて試験どころの話ではない。
「っ待て、ネフィリア!!」
「え……!?」
勢いのままにネフィリアを押し倒すと、その頭上を何かが通り過ぎていき、着弾。
木に穴が空くほどの威力。もし彼女に当たっていたらと思うと、コレを仕掛けてきたアイツらを絶対に許すことが出来ない。
「どういうことだ、おまえら!!」
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