02

このあいだ、《痣持ち》である噂が一気に拡散されたせいで、俺に話しかけてくるクラスメイトは誰もいなくなった。まぁ、もともと目つきも悪いし、白髪赤目っていうなんだか不良みたいな見た目だけども。


 おかげで、実技の授業は辛い。隣のやつとペアを組めーと教官が言っても、みんな俺を最初からいないかのようにペア組むんだもん。クラス人数は40人だから、絶対ボッチにならないはずなのに。


 また教官に頼んでやってもらうか……。


「相変わらず、あなたは見ていて飽きないですね」


 珍しい、という他なかった。

 だって彼女は、いつも自分の取り巻き女子とペアを組んでいるから。


「そりゃどーも。っていうのか、いいのかよ? 痣持ちだーって絶賛悪評が立ってる俺に話しかけて。ネフィリア・ペニー・アムサムダルム七世様よ」


「私が人を出自で判断するような人間に見えるのですか?」


「まあ見えないわな」


 腰まで落ちた美しい銀髪。

 瞳はアクアマリンを思わせる透き通った青色。

 ブレザーの制服を着こなすその姿は、ネフィリア様ファンクラブなるものが存在しているほど美しい。


「私のペアになりませんか?」


「そりゃ願ってもない話だけども、なにゆえ? いつも取り巻きAちゃんとやってんじゃん」


 ていうか、なんど見てもスタイル抜群だなぁ。

 いまどきの女子高生だってあんなスラッとボディで巨乳じゃねぇぞ。ほんとに俺と同じ13歳か?


「いつも、あなたの視線にいやらしさを感じていたので、今回はその確認と処罰をしに来ました」


 え、俺が実技の時間中ずっと見てたのバレてた!?


「じゅ、13歳なんて子どもじゃねーか! んな目で見るほど俺はロリコンじゃねぇし」


「まるで自分が13歳ではないような言い方をするのですね」


「ちげーよ! それはおまえが俺のつ───」


「つ?」


 ……あっぶねぇ。

 勢い余って「おまえは俺の妻だから見るのは当たり前じゃん」とか言いそうになったぁ!

 この話を今のネフィリアにしても、鼻で笑ってあしらわれるだけ。

 俺だって、たまたま思い出しただけなのだ。

 

 まだ奴隷だった日、薄暗い檻越しで馬車に乗った彼女を見つけた。

 そして、前世の記憶をすべて取り戻した。

 あまりにもネフリィアが彼女にそっくりだったから。

 結婚した翌日に死んだ、小野塚紗絵おのづかさえに。


 ──まあ、ネフリィアが紗絵の転生した姿がどうかは分からないし。


 ──もしかしたら、人違いかもしれないけど。


 でも、それでも、俺は自分の感情がおさえきれなくて、この学院の門戸を叩いたのだ。


「ちゅうもくしてねぇ♡」


 生徒全員のストレッチが終わったところで、いかにもオネェ感ただようトール先生が手を叩いた。ってか、なんだよあの口紅。紫色じゃね?


「それでは今から、木剣を使った模擬試合を執り行いまぁす! んふふふ、アタシこの授業が大好きなのぉ。まずはそうねぇ、最初は最もMっ気のありそうな子たちをピックアップするわよぉ♡」


 なんだよMっけのある子って。いやまじで、ホントにあの先生ちゃんと教員免許持ってんの? 先生ってみんな魔法白輝騎士シルバー・ジャックでしょ? 俺なら履歴書見て落と──


「いま目が合ったわねオルヴィ!!」


 ってか俺いま地面見てましたけど!? 

 選ばれたのだから仕方ない、前に出るか。


「いいわよぉ、アナタが一番最初ね。もうひとりはそこのアナタよ!」


「僕ですか? 分かりました、謹んでお受けいたします」


 そう言って出てきたのは、いかにもガリ勉そうなマッシュヘアーの少年。

 あぁ……よりによっておまえかよ。

 今一番、俺が腹立ってるやつヤツ。


「一番最初に剣を振るえるなんて光栄じゃないか。オルヴィ君」


「そうだねぇ。俺も男子学生の裸を覗き見てあまつさえ押し倒すような変態ニレット君と戦えて光栄だよ」


「だ、誰も押し倒してなんてないぞ!!」


 ニレットは顔面を真っ赤にしている。

 まあ、押し倒されるというのはちょっと言い過ぎたかもな。

 けれども、俺の右腕に痣があるってバレたのは、アイツが着替え中にいきなり突撃してきたからだ。


「僕は……、ただ、オルヴィ君がいつも一人でコソコソ着替えてて、全然体を見せてくれないから」


 いまの一言で何かクラスの女子の目が変わったんだけど?

 なんか鼻血垂らしてる女子いるんだけど?

 え、なに? 俺ネフィリア一筋だよ?



「試合、開始よぉ♡」




「───隙あり」


 ニレットが突っ込んできて、俺はわずかばかり避けるのが遅れる。

 何とか後ろに身を引いて回避。

 またたく間に連続斬りを決めてくるニレット。


「ほらほら、どうしたんだい? いつもの威勢を見せてみなよ!」


 しばらく俺は防戦。

 そうすると必ず、コイツは調子に乗ってくる。

 弱者をいたぶる強者の顔だ。

 周りに見せつけるように、だんだんと体の動きが大きくなっていく。

 

「僕の、勝ち────」


 ズドンッ。

 鈍い衝撃音が響いて、ニレットは口から大量の息を吐き出した。

 膝に力が入らないのだろう、そのまま崩れ落ちてしまう。


 だって、俺が膝と腹を剣で叩いたのだから。


「試合終了よー♡」


 クラス中の人間がざわめいていた。

 なにが起きたのか、なぜオルヴィではなくニレットが倒れているのか。

 

「い、イカサマだ……! きっと、インチキしたに決まってる!」


「そうだそうだ! オルヴィみたいな奴が、ニレットに勝てるはずない!!」


 確か……ガンテっていう名前だったかな。小太りだけどすばしっこくて、成績もそこそこ良かった気がする。隣のやつは知らん。


「あんな奴にニレットくんが負けるはずないと思います!」


 まぁ、目で追いきれなかった者はそう思うだろう。

 でも、ちゃんと俺が正攻法で倒したことを知っている者もいる。


「くだらないですね」


 そう、学年総合第一位のネフィリアがその一人だ。


「なにをほざいているのですか? 誰がどう見ても、おお振りになったニレットさんの腹を彼が切り裂いたでしょう。勝ったのは彼の方です」


 おお、さすが入試の総合第一位のお言葉は違うなぁ。

 みんな面白いように静かになった。


「そうよぉ♡ アタシもちゃんと見てたわよぉ。オルヴィくんがその猛々しい剣で、ニレットくんの敏感なところを叩いたのよぉ♡」


 …………一瞬やばいほうの意味かと思ってしまった俺を誰か殴ってくれ。

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