俺と一緒に死んだ妻が帝国の姫君になっていたので、うまいことやって愛を叫ぼうと思う 〜奴隷だった俺は今までの記憶を《天賦》に変えて名門学院でトップを目指す〜

北城らんまる

01

「ねえ知ってる? オルヴィっていう男の子のこと」


「なになに? なんの話?」


「右腕に大きな痣があるんだって」


「え? ほんと? やだ、奴隷……じゃなくて《痣持ち》なの?」


「そうらしいよ。実技の授業だって、いっつもコソコソ一人で着替えてるから、変だなって思った子が突撃したんだって。そしたら、腕にくっきり」


「じゃあ、あの噂は本当だったの? 貴族でも平民でもなく《痣持ち》の人が、実技試験の成績がトップだったって話」


「なにそれ、さすがに話盛りすぎじゃない?」


「あっはははは! そうだよね、トップってことはないよねぇ! 入学できたのも、きっと何かの間違いよねぇっ!! あっはははは!!」


「《痣持ち》には無理無理っ!」


 キャッキャッ。

 周りの視線などお構いなしの女子学生に、俺はため息しか出なかった。


 悪かったねぇ、元・奴隷で。


 でも、仕方ないのだ。

 こんな環境になることは、入学する前から分かっていたことだし、覚悟もしていた。

 なんたってここは、ドゥルソリヤ魔法学院。王族貴族は行って当然、市民だと卒業できたら将来安泰、家族大喜びの名門校だ。


 一応、貴族も平民も平等に学問を学ばせようという方針があるが、あんなの建前だ。一部の王族とあらゆる貴族階級が全生徒中の八割を占める。残りの一割強は子どもの教育に大金をつぎ込む上流階級の市民で、あとは地方からあがってきたマジもんの天才が一人二人いるかいないかってところ。

 

 そして俺は、そのどちらにも当てはまらない。

 

 貧民街出身の俺は、人狩りに襲われて奴隷になった。

 一度奴隷になって右腕に焼印を押されると、その人はもう「人」として扱われない。未来永劫、奴隷として生き続けなければならない。

 認識としては家畜、ペットというような感じか。いや、人によってはソレ以下か──


 でも、そんな俺はいま学院の土を踏み、教室でうたた寝という名の盗み聞きを敢行している。

 

 そんなことが出来たのは、俺が類稀な天賦アビリティを持っていたから。

 天賦アビリティというのは、自分の持つ才能を可視化したものらしい。すげぇって思ったよ。だって自分の才能が分かるんだったら、得意なこと伸ばせば無敵ってことだよ? まじで感動するわ。

 

 俺の考えは意外と当たっていて、自分の天賦アビリティの有無で職業を選んでいる人が多い。騎士とか料理人とか、牛飼いとかね。

 

 んで、俺が持っていた天賦アビリティはずばり、《天賦超越アビリティ・ブレイク》というものだ。実はコレ、鑑定士の人も知らないくらい珍しいものらしくて、誰もどんな効果があるのか分からなかった。もちろん俺もね。


 それが分かるようになったのは、夜の森で魔獣の大群に襲われたときだ。

 あのとき、俺は無我夢中にナイフを振り回していた。

 だって実際目の前におっかない魔獣がわんさかいるんだもん。周りの人はみんな死んじゃったし、もう何が何だか分かんないくらいパニクってた。


 そのとき、初めて《天賦超越アビリティ・ブレイク》の意味を知ったんだ。

 今まで培った記憶(思い出とか)、感情(怒りや悲しみとか)を元にして、経験値が重ねがけされるってことだった。今でも言葉にしにくいんだが、端的に言うと──


 死の恐怖のような強烈なものを感じれば感じるほど、総合能力レベルが上がりやすくなる。


 しかもこの《天賦超越アビリティ・ブレイク》は、魂に刻まれた記憶なら前世でも遡ってもいいとのこと。俺の前世は日本人でそれはまぁ強烈な死に方をした。うん、車の中で溺れ死んだ。めちゃくちゃ怖くて、正直今でも思い出したくない。


 前世の強烈な記憶+今世の強烈な記憶により、俺が貰える経験値は常人の十数倍となったわけだ。


 もちろん、努力しないと能力はあがらない。

 俺はどうしても、ドゥルソリヤ魔法学院に入学しないといけない理由があったので、主人が死んだあと、魔獣と戦いまくって能力あげをした。

 

 奴隷がドゥルソリヤ魔法学院に入るには、トップクラスの合格点を叩き出さない無理だと思ったから。

 実技も、筆記も。

 

 もう一度、アイツの隣に立つために──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る