連帯保証

 私は連れ合いを亡くした。



 孤児だった私が見初めたその人は美しく、まさに一目ぼれだった。


 一緒になるために多くを犠牲にした。友達も失った。仲間も捨てた。


 何より、それまでの仕事関係を清算するために全財産を使い果たした。



 そして私は私なりの幸せをつかんだ。

 静かな片田舎のこじんまりした町に移り住んで二人の生活は始まった。

 でも同じ屋根の下で暮らせたのはたったの一年だけ。


 三週間前の事故がすべてを奪った……



 義両親が仕事上の功績で得た海外旅行。親戚一同、もちろん私たち夫婦も招待されていた。しかし私を含め何人かは参加できなかった。私の場合は以前から人命がかかったオペレーションを抱えていたからだ。それを追えてから合流する予定だったが、その前に事故の第一報を受け取った。



 義両親は即死だったそうだ。その他の同行者は病院に運び込まれ、そこで息を引き取った。だから私は義両親の遺産を相続することになった。


 総額六十億。とんでもない額だ。私を含め相続人は四人。うち実子が二人で、この二人とは家族ぐるみで付き合っていた数少ない親友だ。もう一人は義両親の養子で、私と彼の顔立ちがとても似ていたこともありあっという間に意気投合、先の二人を含めて日ごろの憂さを晴らす飲み仲間だ。この四人の間では遺産は法に従って均等に分けることですぐに話がついた。ただ実子二人の姻戚がしゃしゃり出てきて喚き散らしたのには閉口した。


……


 そしてその日は寂しくなったわが家で、養子の彼と差し向かいで飲んでいた。


 すると、ほぼ二人同時にスマホから呼び出し音が鳴った。画面には義両親からの相続を受けることになった実子のうちの一人の名前。向かいに座る彼にその名前を見せると、彼はもう一人の相続人からの着信を示すスマホ画面を見せてくれた。


 お互い何かを悟って急いで電話を受けた。彼は互いに邪魔にならないよう席を立ち部屋の隅に移動していた。


「何かあった?」

「あなたが結婚して少ししたころ私の連帯保証人になってもらったわよね」

「ああ、あれね。義理でのやつ」

「ごめんなさい。返せなくなったの。とても返せる金額ではないの」

「いや、あれは義理でなった連帯保証人で極度額も十万だから私にはそれ以上の……」

「そうじゃないの!」

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