転生

 当たり前だと思っているようなことが当たり前じゃないと気づいたのは、残念ながら死後のことだった。というのも、私は何もしないままに余生をすごすことになったのだけれど、それは恐ろしくつまらないことだったのだ。みんなみんな潰れてしまえと念じながら過ごす余生は全く無味乾燥だった。あいつ、ほんとにやる気あんのかなと何度も天使に思われたことだろう。あんなの、ほんと嘘でしかない。馬鹿しかいないのかよ、と怒鳴っている俺が一番馬鹿だったというオチ。お前、でもいつも言いたいことあったんだよな、と天使に慰められてやっと俺は気づいたのだ。全部全部茶番かよ、と。反省点といたしましては、踊る阿呆にならなかったことです。とまぁ反省文を書く。反省文を書きながらちらちら横を見ると天使がパータパタと羽を動かしてこちらを慈愛の目で見てきたから、少しドキドキした。口は悪いけどなんて綺麗な天使なんだろうと。そしたらアイツテレパス野郎だったから、瞬時に首根っこ掴まれて「早く書け」とバリトンボイスで言ってきた。もう俺は既に天使の美しさに魅入られていたから、大人しく従ったね。さらさらと反省文を書いて天使に提出したら、「うん、まぁよし」

って言って、俺を神様の代理人として輪廻の渦の端に立たせた。なんだこれ気持ち悪い。ありえない量の魂(直感的にそう思った)がぐるぐると回っていた。なんだこいつら。そう思えば、安心安定の瞬発力で天使は言った。「肉体を持つまで待っている人たちの魂だよ」へぇ。まぁじゃあ今回人生を送った俺は運が良かったわけか。

「単なる運じゃない。君が現世を進化させると見込まれてのことだ」

 俺なんか寄与したかな? よく覚えてないし、なんせ晩年なんかちっとも働いていないぞ。……まぁ、天使の言うとおりなんだろうな。それはまぁ良かったとしよう。変な世界なんだな。システマティックといえばシステマティック、混沌といえば混沌だ。それも当人次第ってわけか。人生はまだ続くみたいだったので、俺は観念して光の道を歩いていく天使に付き従った。始まる。

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