第12話 勇者の雷撃

影闇の銛シャドウ・ハープーン!!」


 巨大な闇魔法の銛を出すと、アイシャがその刃先に乗った。このまま、巨大な球根みたいな頭部に打ち込むわ。


「蜂は私が叩き落とすから、アイシャは植物の魔物に集中して」

「ありがとう!テルテ!!」


 笑顔でうなづくと、アイシャは剣を構えた。


「はい、いってらっしゃい!!」


 アイシャを乗せた影闇の銛を、植物の魔物に向かって撃ち放った。魔力の銛は高速で、上空を駆け抜けていく。

 蜂の魔物達はそれを異物とみなし、攻撃しようとしている。


「邪魔はさせないわよ」


 私は影闇の鞭シャドウ・ウィップで、蜂たちを叩き落とす。無数の蜂たちが地上に落ち、魔石やジェムに変わっていく。

 上空を見上げると、まもなくアイシャが巨大植物に接触しそうになっている。彼女の剣は、バチバチと雷を纏っている。

 地と水の複合属性である森林属性、その反対の複合属性は――稲妻属性!!


「いっけぇー!アイシャー!!」


 巨大植物に到達する直前、アイシャは上空に飛び上がった。私の影闇の銛は、そのまま植物の魔物の頭部を貫く。

 飛び上がったアイシャは、稲妻の魔力の剣――閃光を振り下ろす。


「日雷閃!!」


 ドゴゴゴゴゴンンンッ!!!


 天地を貫く眩い閃光と共に、全身に轟音が響き渡る。そして激しい風が、吹き付けてきた。


「なんて威力なの……」


 少し前まで、ファイアーボールもまともに撃てなかったのに。さすが、勇者様ってところかしら。

 閃光で白んだ視界が、徐々に戻っていく。前方には地上に降り立つ、アイシャの姿。更にその先には、真っ二つに割れた巨大植物の姿があった。


「やったー!やったやったー!アイシャすごーい!!」

「す……す……すごいワン!!」

「そんな……勝っちゃった……!?」


 後ろから、リジェットちゃんたちの声が聞こえる。三人とも、ちゃんと無事みたいね。

 植物の魔物は崩れるように倒れ、巨大な魔石と大量のジェムに姿を変えていく。蜂の魔物の大群は、いつの間にか姿を消していた。


「なんだか大仕事になっちゃったわね」


 私はアイシャのもとへ行き、声をかける。あれだけ派手に戦ってたのに、ケガひとつなさそうね。


「うん。でも、みんな無事そうで良かった!」


 アイシャは満面の笑みで、答えてくれた。そんなところが、勇者さまって感じね。

 ただ誰かの平和のために戦う、そんな存在。


「そうだ!チバン君、足をケガしてたんだよね。回復魔法かけてあげなきゃ!」


 そう言うと、アイシャはリジェットちゃんたちの方へ走っていく。


 その後、私たちは体勢を整えてヨールティに戻っていった。



■■■


「そんな!!こんなにいただく訳にはいきません!!僕たちは命を救ってもらったんです!!」


 私たちは翌日、トミーザ雑貨店の前に集まっていた。ここはトーマ君の、お姉さんが営む店なんだそう。

 三人はもう、村に帰るそうだ。リジェットちゃんとチバン君は、村に持ち帰る荷物を馬車に積む作業をしていた。


「同行してる最中の戦いだったし、魔石やジェムはちゃんと分配しようと思って」


 巨大植物の魔物と戦った際、蜂の大群もかなり討伐した。そのため、大量の魔石とジェムも獲得することに。

 これでも巨大植物の魔物の、大きな珍しい魔石は多く譲ってもらっている。こちらとしても不満はない。


「それに馬車に乗せてもらったり、薬草の摘み方も教えてもらったわ」

「あの魔物だって、トーマ君たちがいたから、早く倒せたんだと思う」

「ピィ!」

「でも……」


 トーマ君は困ったように、言葉に詰まってしまった。双方が譲り合いになってしまい、どうしたものか……。


「テルテー!これトミーザ姉ちゃんから!持ってってもらえってー!」


 荷物の整理をしていたリジェットが、大きな袋を持って店から出てきた。袋には溢れ出すほどの、色鮮やかなオレンジが入っていた。


「すごい立派なオレンジね。美味しそう!」

「あたしらの村のオレンジなんだ!美味しいって、結構有名なんだよー」

「姉ちゃんたちー!こっちもだワン!」


 今度はチバン君が、大きな袋を抱えてお店から出てきた。


「テルテがケーキ作るって言ったらさぁ、これも渡してって!砂糖に、小麦粉に、バター……あといろいろ!」

「こんなに!?」

「うわぁ……ケーキ何個作れるかなぁ」


 嬉しそうにアイシャが、こちらを見てる。そんなに期待されちゃ、何か作るしかないわね。


「こんなにたくさん、もらってばかりというのも気が引けるわ」


 私はトーマ君に、視線を送る。彼はなお、困った様子でこちらの意図を理解してくれた。


「食材と交換となると、僕たちの方がかなり得をしてしまいますが……このジェム、受け取らせてもらいます」

「えー!?コレあたしたちで山分けしていいの!?」

「これだけあったら、新しい武器も買えるワン?」

「ちょっと二人とも……」


 ジェムを受け取ったら受け取ったで、トーマ君は再び困りの種を抱えてしまったようね。この三人のやりとり、好きだなぁ。


「二人と冒険できて、楽しかったよ!アイシャ!テルテ!!!ありがとう!!」

「機会があったら、またよろしくお願いします。あと、姉の店もごひいきに」

「さよならワン!また会おうワン!」


 荷物を積み終わると、三人は故郷の村へと帰って行った。村についたら、これからの人生を決断するのね。


「オレンジか……」

「アイシャ?」

「私の故郷にも、オレンジの木がたくさんあったんだ。なんだか懐かしくなっちゃって」


 彼女は失われた故郷を想い、少し寂しそう。焼かれた村に、その木は残っているのだろうか?


「魔王を倒したら、帰るんでしょ?」

「テルテ……?」


 少し驚いたように、アイシャは私を見つめる。


「一緒に」

「…………うん」


 いつか、私たちが帰る場所へ。

 トーマ君たちを見送りながら、いつか自分たちの帰る故郷に想いを馳せるのだった。


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