第11話 闇夜の攻防

「ウワワン!!ウワワワワ!!」


 ジタバタとチバン君が暴れるも、蔓はビクともしない。蔓はすごいスピードで、植物の魔物の本体へと戻っていく。


「チバンをかえせー!!」

「追っちゃダメだリジェット!!」


 トーマ君の制止を聞く間もなく、リジェットちゃんはハンマーを手に走り出した。アイシャも同時に、駆け出していく。


「はあぁぁっ!!」


 アイシャの炎の剣が、チバン君を宙吊りにした蔓に振り下ろされる。蔓は切り落とされ、チバン君は地面に投げ出される。


「うんどりゃあぁぁっ!!」


 投げ出されたチバン君を、リジェットちゃんが踏ん張って受け止めた。すごい力持ちなのね、彼女……。


「大丈夫!?チバン!!」

「ワン……なんとか……」

「よかった!よかったよー!!」


 チバン君を救出した、次の瞬間……


フォーンフォーンフォーン


 管楽器のような低い音が、響いてくる。これは植物の魔物から、響いているのかしら?

 音が鳴り止むと、植物の魔物は体のそこかしこに巨大な花を咲かせた。


「なによコレー!?」

「二人とも、早く魔物から離れてテルテの近くに行くんだ」

「わかっ…キャン」


 アイシャたちは、魔物と距離を取ろうとしている。でもチバン君が、蔓に掴まれた足をケガしてるみたい。うまく歩けずに、リジェットちゃんの肩を借りてるわね。


ヴォンヴォンヴォンヴォン……


 今度は上空から、重たい音が落ちてくる。星空をかき消していく、大量の黒い影……。

 あれは……蜂の魔物の大軍!?

 蜂たちは巨大植物の魔物に向かって、飛んでいく。


「ピピッ?ピピピッ!?」

「花の蜜を……集めているの……!?」

「テルテさん!こっちにも向かってきます!!」


 群れの一部の蜂たちが、地上の私たちに向かって襲いかかってきた。蜜蜂を守る、交戦部隊ってところかしら?


「影闇の鞭!!」

「うわわわわっっ!!」


 私は闇の魔力で無数の鞭を繰り出し、蜂たちをたたき落としていく。


「闇夜で私に勝とうなんて、無謀なヤツらね」

「す……すごい……」


 蜂の魔物を一掃して、アイシャの方を見る。アイシャが風の魔法剣で応戦して、リジェットちゃんたちを逃がそうとしているわね。

 植物の魔物に近いせいか、三人の方が猛攻を受けている。早く助けに行かないと!


「うにぴー!トーマ君を守って!」

「ピ!」

「うわわっ……これは……」


 うにぴーが触手でトーマ君を囲い、結界を張る。


「この結界の中にいれば、うにぴーが守ってくれるわ。私はリジェットちゃんたちを、助けに行く。二人がこっちに来たら、一緒に結界の中に隠れて」

「わ、わかりました……二人を、どうかお願いします……!」


 私は軽くうなづいて、アイシャたちの方へ走り出した。影移動が出来れば、もっと安全に救出出来るのにな……。


「リジェットちゃん!こっちよ!!」


 闇影の鞭で上空の蜂たちを払いながら、三人に近づいていく。蜂たちの攻撃が弱まると、リジェットちゃんたちが歩き始める。

 私はリジェットちゃんたちと、合流した。


「テルテ!テルテー!!」

「リジェットちゃん、チバン君、もうひと頑張りよ!」

「うん……うん!!」

「ワン!」

「さぁ、トーマ君のところへ!うにぴーが守ってくれるわ」


 二人に声をかけ、送り出す。私は追ってくる蜂たちを、闇影の鞭で叩き落としながら援護を続けた。


「リジェット!チバン!こっちだ!!」

「ピィー!ピィー!」

「トーマァー!トームっきゃああっ!!」


 大量の針が、空から降りそそぐ。かなり遠くから……点のように見える集団のあたりから、攻撃してきてる!?こっちは退いてるっていうのに、しつこい蜂たちね!!


「ぅ……ウィンドポルカ!!」


 トーマ君が結界の中から、魔法を唱えている。数個の竜巻が、リジェットちゃん達を囲う。

 風は蜂たちの攻撃から守るように、二人の周りをクルクル回っている。殺傷力はあまり無さそうだけど、攻撃を撹乱してるわ。

 やるじゃん、トーマ君!


「ピィー!ピッピピーッ!!」


 二人はなんとか、うにぴーの触手の射程範囲に入った。うにぴーは触手で二人を優しく掴み、結界の中に引き寄せる。


「トーマぁー!」

「死ぬかと思ったワーン!」

「良かった……二人とも無事で良かった!」


 三人は結界の中で、身を寄せている。これで全力で戦えるわね。

 早くアイシャと合流しなきゃ!


「やあぁぁっ!!」


 火と風の魔法剣を使い分けながら、アイシャは戦っている。蜂と巨大植物の蔓が、それぞれ別に襲いかかり苦戦してるようね。


「アイシャ!大丈夫?」

「テルテ!蜂の魔物が次から次に飛んできて、全然先に進めないんだ。それにこの蔓っ!」


 私たちの会話を遮るように、巨大な蔓が振り下ろされた。蜂たちも、追撃してくる。

 一人でこれに対処していたなんて、本当にアイシャは人並外れた戦闘力だわ。


「魔法剣が、通じてるようで決定打にならなくて」

「なるほどね……」


 影闇の鞭で蔓や本体を攻撃してみるも、どこもすぐに再生してしまう。本体に回復の魔力が、満たされているのかも……。


「もっと再生が間に合わないような、強力な一撃を打ち込まないと」


 私たちが魔物の特性を探っていると、後方から声がしてきた。


「テル―さ――!――ヤンヒスシ――!大―と雨の―――森林――!!」


 何かを伝えようと、トーマ君が叫んでいる。でも、言葉が途切れ途切れでよく聞こえないわ……。


「土と水の魔物だってーー!!」


 さすがリジェットちゃん、声が大きくてよく聞こえる。ちょっと内容が簡略化されてる気もするけど。

 それにしても――


「複合属性の魔物ってこと……?」

「テルテ、土と水ってことは?」


 アイシャがキラキラした目で、こちらを見つめている。彼女がやりたいことが、一瞬でわかってしまった。


「こんな機会は滅多にないからね。巨大植物の頭上まで送ってあげるわ。いってらっしゃい、アイシャ!!」

「うん!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る