第9話 村人パーティ
翌日、私たちはテルスの丘に向かって出発した。
ヨールティ近郊は兵士や冒険者による巡回がある。だから、ほとんど魔物に遭遇することはなかった。
昼食と休憩をとり、さらに進んだあたりで、幌馬車が蜂型の魔物に襲われていた。馬車の外では、ハンマーを持った女の子が応戦している。
「この!あっちいけっ!どりゃー!!」
彼女は、大きなハンマーを軽々と振り回していた。小柄な女の子に見えるが、他種族の大人の女性なのかもしれない。
しかし飛び回る蜂の魔物に届かず、苦戦してるようだ。それどころか、少しずつ魔物が増えてる気もする……。
「助けなきゃ!!」
「えっ、ちょっ」
止める間もなく、アイシャは駆け出していた。彼女の剣は、炎を纏い始める。
「はあぁぁぁっ!!」
高く飛び上がり剣を一振すると、炎の波動が飛び回る蜂の魔物を一掃した。蜂の燃える残骸が、バラバラと落ちていく。
「いやぁっ!!うにぴー!水!みずー!!」
「ピィッピィィーッ!」
うにぴーは馬車の上空にすっ飛んで行き、傘のように触手を広げた。そして水魔法を雨のように、馬車の周囲に降らせる。
幌馬車の幌は塗料が塗られて耐火性があるけど、さすがに火の雨には耐えられないだろう。
「なによこれー!めっちゃ雨なんだけどー!!」
「どうしたワン?」
「僕たち、助かったの……?」
女の子が喫驚していると、幌馬車の中から赤毛のコボルトと男の子が出てきた。
「ピ!」
「はあぁ…ありがとう、うにぴー」
消火を終えたうにぴーが、私の元へ帰ってきた。アイシャも魔法剣が使えたー!っと、駆け寄ってきた。
強くなったらなったで、もう少し周りを気にして欲しいわ……。
「ちょっとあんたたち!どういうことよコレー!!」
先ほど戦っていた女の子が、威勢よく怒鳴り込んでくる。
「もちろん勇者として皆さんを助けうごあぶぶ」
「獲物が見えたから仕留めたんだけど、横取りしちゃったかしら?」
私の合図でうにぴーが、アイシャの口を塞ぐ。村人や冒険者を助けると、謝礼報酬が発生する。
正直、手続きが面倒くさい上に揉め事も多いのよね。あまりお金もってなさそうな子たちだし、無かったことにしたい……。
「はあ!?あんなのあたしだって――」
「リジェット!……あの、僕たちの手に負えたかわかりません。お譲りしますので、おきになさらず」
男の子の方は意図が通じたようだ。女の子を引っ込めると、タダで助けてくれるって事だよと耳打ちしている。
「なんだー、ちょーいい人じゃん!ありがと!」
「いい人?ありがとワン!」
「えぇ……」
「あ……あははは」
素直すぎる女の子とコボルトに、頭を抱える男の子。なんだか彼、共感できてしまうわ。
「アイシャも助けるのはいいけど、あまり公言しないの!経済的に苦しめちゃうかもしれないんだからね」
「そ、そうなんだ……気をつける!」
こっちもこっちで、頭を抱えたくなっちゃう勇者様なんだから。
「あのぅ……」
おずおずと男の子が話しかけてきた。
「お二人はどちらに向かってるのですか?」
「テルスの丘です。採集の依頼を請け負っていて」
「ああ、それなら!僕たちと同じです。良かったら一緒に馬車で行きませんか?」
丁寧に提案してくれたが、これは護衛としての同行を求められてるわね。
「ふぅん。どうする?アイシャ?」
「ねぇねぇ一緒に行こうよー!楽しそう!」
「ピーナッツもあるワン!」
女の子とコボルト君も、誘ってくる。こちらは、純粋に一緒に行きたそうだ。
「うん、楽しそう!一緒に行きたい」
「そう。ならご一緒しようかしら」
私達は三人に歓迎されながら、彼らの馬車に乗り込んだ。馬車は思いのほか、快適で速い。
「自己紹介がまだでしたね。僕はトーマ。彼女はリジェット。御者をしているのはチバンです」
「よろしくね!」
「ワン!」
三人は元気に挨拶をしてくれた。
トーマ君はハーフリンク、リジェットちゃんはドワーフ、そしてコボルトのチバン君。三人は同じ村の幼馴染みだそう。
「アイシャです!」
「私はテルテパナ。この子はうにぴー」
「よろしく!アイシャ!テルテファ……テルテフォ……んんっ」
種族問わず、私の名前って呼びづらいのね……。
「あの……テルテでいいわ」
「えへへ。テルテ、うにぴー、よろしく!」
「ピィ!」
リジェットは早速、うにぴーをつついて遊んでいる。そこにアイシャも参加して、うにぴーも嬉しそう。
「幌馬車ってこんなに快適なのね。昔乗った荷馬車は酷いものだったけど……」
「素材は質素ですが、村の職人が作ったものです。村では国に納める馬車も作っているんですよ。それにチバンは村で一番、馬の扱いが上手いんです」
「そうなのね。二日かかる予定だったけど、夕方には到着しそう」
明日は朝から採集かぁ……。
そうつぶやくと、知らないんですか?とトーマ君が続ける。
「テルスの丘の薬草は、夜に採ると品質が保たれるんですよ」
僕たちは夕食をとったあとに採集を始める予定ですと、トーマ君が教えてくれた。
それじゃあ私達も、お楽しみのケーキを食べて仕事をするか。
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