第4話 街道の夜

「巨大な魔物の襲撃を受け、炎に包まれた村は捨てざるを得なくなりました」


 話題を変えようとアイシャに話を振ったばかりに、予想以上に重い話になってしまった……。

 空気を読んだうにぴーが、ゆっくりと私の頭に腰掛ける。そんな……自分は帽子ですとばかりに気配を消さなくても……。


「幸いにも住民の避難は速やかで、死者や重傷者を出さずに済んだの」


 それは良かった。村や財産を失ったのは辛いだろうけど、死傷者が出なかったのはせめてもの救いね。


「村人たちは避難民として、王都バルコアに保護されました。そして国王と村のみんなの強いすすめで、私は魔王討伐の旅に出ることになったんだ」


 ……ん?


「……それまでは旅に出る予定は無かったの?」

「村では魔物討伐の役目があったし、私の回復魔法でも必要としてる人もいたから」

「……他の村の方たちはどうなったの?」

「国が住む場所や新しい仕事を手配してくれるみたい。親戚を頼って他の村に移住するって人もいたな」


 村単位の住民の住居や仕事の手配には、それなりにお金がかかる。それなのにずいぶん早く、救済の話が決まったものね……。


「……魔王討伐にあたって、支度金や支給品とかは何かあった?」

「そんな!!魔王を倒すことは人類の平和のためであり、勇者の拝命を受けた者の使命です!!お金や物を貰うなんてとんでもない!!」


 それに私にはこの剣があるから大丈夫!!と、自信満々に言う。

 確かにアイシャの剣は業物のようだけど、それとこれとは話が別。魔王の討伐という偉業を、無償依頼というのはありえない。

 もしかして村人救済の代償として、勇者の派遣を要請されたのでは……?


「予想の範囲だけど、ニンゲンとは恐ろしいものです……」

「え?どうしたのテルテ?」

「いえ……あの、お菓子でも食べる?」

「お菓子なんて持ってきてるの!?食べたい!!」


 私はこの村人勇者のために、とっておきのナッツたっぷりクッキーを取り出した。せめて仲間として、彼女の過去を労わろう。


「美味しー!!ありがとうテルテ。それにしても、色んな物を持ってきてるんだな。お菓子に、魔法具に、ご飯の材料や食器も……」


 そんなに大きな荷物を持ってるように見えないのに……と、アイシャは不思議そうに私を見つめてくる。


「ああそれは、闇魔法でこんなことが出来てね」

「え…えっ、えーーー!!」


 私は大岩に映った自分の影に、体の半分を入れてみせた。


「どうなってるのテルテ!?」

「夜だけ使える魔法で、影の中に自由に出入りできるのよ」

「え、ちょっとどこ行くの!?」


 そのまま大岩に吸い込まれて消える私に、アイシャがあたふたしている。


「テルテ!?テルテー!?」

「はーい!」

「ぎゃああああああっ!!」


 今度はアイシャの背後の影から姿を表すと、かなり本気の絶叫をあげられた。……ちょっとイジワルだったかな?


「ごめん……そんなに驚くと思わなくて……」

「心臓に悪いよ……でも、そういう変わった魔法もあるんだな」

「うん。それでね」

「ピッ?」


 私は再び腰掛けて、気配を消していたうにぴーを膝の上に置いた。自分の影に手を入れるて、保管しておいたジェムのカゴを取り出す。


「影の中は私だけの異空間になってて、物の保管に適してたの。私の荷物はほとんど、異空間に入れてるのよ」

「へぇー、それで色んな物が出てくるのか」

「ピピ!ピー!!」

「はいはい。好きなの選んでいいよ」


 ご飯の時間だと悟ったうにぴーが、早くちょうだいと急かしてくる。さっきまであんなに静かだったのに。

 色とりどりのジェムの入ったカゴに、うにぴーは身を乗り出して選び始めた。魔素の結晶であるジェムは、魔法生物の動力源でご飯なのだ。


「ピッ!ピッ!ピピミィ……」

「ふふ……うにぴー、黒いトゲトゲとオレンジのツルツルのジェムが好きなの。いつも三個あげてるから、最後の一個をどれにするか悩んでるのよ」

「可愛い!!グルメなんだなぁ」

「今日は夜番もお願いするから、四個食べていいよ」

「ピピピ!?ピッ!ピーッ!」


 うにぴーは追加で青い四角いジェムと、緑と白の細長いジェムを選んだ。そして四個のジェムを、一気に頬張る。

 黒とオレンジのジェムはキラキラと消えてゆき、青と緑のジェムは頬のあたりにふよふよと浮いて残った。

 後で夜食として食べるのだろう。


「それじゃあ夜番、よろしくね」

「ピッピピー!」


 かけ声とともに、うにぴーは触手を天幕のように広げた。私とアイシャを、魔力の結界で包み込む。


「う、うにぴーが天幕になっちゃった!?」

「雨風はもちろん防げるし、うにぴーが上で見張って弱い魔物は倒してくれるわ。それに自分で解決できないときは、ちゃんと起こしてくれるの」

「有能すぎる!!」


 ひとしきり驚き倒すと、あっという間にアイシャは眠ってしまった。あんなに魔物を倒して、ケガまでしたのだから当然か。


 私もこんなにしゃべる人と一緒にいたの、久しぶり。なんか気持ちよく、疲れたな。


 静かに寝息をたてるアイシャを追うように、私も眠りについたのだった。

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