第2話 勇者ちゃん(16)
「ええ、今まさに初めての仲間探し中です」
「よかった!そんな感じだなぁって思ったんですよ」
女の子はニコッとしながら手を自らの胸に当て、続けて言った。
「私はアイシャ。ランジャ村から来ました!北の地を目指すために、冒険者になったの」
アイシャはハキハキとした口調で自己紹介をしてくれた。すごく明るくて、眩しい子だぁ……。
「私はテルテパナ、ここ王都バルコアの生まれです。日々の糧のため、冒険者となりました。私も北へ向かうつもりです」
バルコアは大陸南端の国。王都より南は農村が点在するだけなので、冒険者は基本的に北を目指すのだ。
「あと、この子はうにぴー。私の友達」
「ピィー!」
「わわ……なんかキラキラしててキレイって思ってたんですけど、生き物だったんだ。可愛い!」
「ピピピッ」
うにぴーをキレイで可愛いと思うなんて、なかなか良い人だわ。照れてしまったのか、うにぴーはくるくると回りながら触手で顔を隠している。
「ところで日々の糧って、魔物退治とかなさるんですか?」
「ええ、そのつもりです」
「それじゃあ、あの、その、よかったら……私とパーティを組んでくれませんか!?」
私としても、同じ年頃の子とパーティを組むのはなんとなく望んでいたこと。そしてなにより、うにぴーを可愛いと言ってくれたのが嬉しい。
「私からもお願いするわ。よろしくね、アイシャさん」
「やったー!」
「ピピッ!」
「へへ、うにぴーもよろしくね!じゃあ早速、パーティ登録に行こう!!」
そう言って彼女は私の手をとると、足取りも軽やかに受付へと向かった。
「ねぇ、テルティっ……あっ、テルテファ……んん」
「テルテでいいよ。私の名前、呼びにくいでしょ?」
「わかった。ねぇ、テルテは何歳?」
「十六」
「同い年だ!!」
アイシャは私の手を握ったまま、嬉しそうに両手を振り上げた。こんなに嬉しそうにされると、なんだかむずがゆくなってしまう。
「ミーアさん!パーティ登録お願いします!!」
「はい、こちらにどうぞ」
ミーアさんはニコニコしながら、すぐに必要な書類を用意してくれた。
「えっと……登録料に同意事項と……」
ブツブツ言いながらアイシャは書類に目を通していく。
「あ、同行者欄のサインは本人の直筆必須なんだ。テルテ、ここにサインお願い」
「わかったわ」
渡された書類にサインをして、返した。
アイシャはどんどん書類を書き進めていく。なんというか、迷いの無い子だな。
その様子を見ながら、ふと先ほど声をかけようと思った女性のことを思い出す。ラウンジの方を振り向いたが、すでにその場から立ち去ったようだった。
「パーティの目的は……」
すごく強そうな人だったから、声をかけてもパーティは組んでもらえなかっただろうな。
アイシャに声をかけてもらえて良かった。これから彼女と一緒に頑張っていこう。
「魔王の討伐です!!」
「なんて?」
登録完了しましたーと、ミーアさんの明朗な声がカラッポの私の脳に響いていった。
■■■
「アイシャ、そこに座って下さい」
「ピッ」
不機嫌を全開にして話し合いの席に着くも、対するアイシャはキラキラとした瞳をしている。
「魔王討伐って、どういうことなの?」
「はい!人類の平和のため、勇者の名のもとに魔王を打ち倒す所存です!!」
「勇者って……はぁ……」
彼女の身分証明書を見せてもらうと、拝命欄にはしっかりと勇者と記載されている。
信託によって拝命は与えられ、戦士や魔法使いといった具合に伝えられる。私の闇魔法使いも拝命だ。
拝命についての考え方は人それぞれで、職業適性程度に思う人から、人生をかける使命と信じている人まで様々。
「魔王なんて本当に倒せると思ってるの?きっとものすごく強いはずよ」
「でも、だからこそ!勇者である私が戦わなきゃならないんです!!」
目の前の少女は、勇者の運命を全身全霊で全うしようとしている。
「それにその、安そ…弱……軽装で戦うなんて危険よ」
「それはこれからお金を貯めて、良い武器や防具を揃えます!魔王打倒のため、自己の研鑽も怠りません!!」
ぐぐぐ……圧が強すぎて心がツラい……!
拝命で勇者と命じられたからって、そこまで邁進できるものなの?
「それに魔王領ってすごく遠いのよ。領地に到達するだけでも、早くて2・3年はかかるわ。もしかしたら、故郷に帰って来れなくなるかもしれ……」
「テルテ!!」
「きゃっ!」
アイシャは私の両手を握り、じっと目を見つめる。なに……?もしかして、言いすぎた?だって魔王討伐なんてあまりにも……
「すっごい詳しいんだね!!」
「え?」
「テルテが仲間になってくれて、心強いよ!!」
「ん……ん〜??」
「ピィ〜……」
言葉を失う私を見て、うにぴーも諦めたような声を上げる。私のうにぴーは、状況理解ができる賢い子なのです。
「でも……」
アイシャはゆっくり私の手を放し、俯きながら続けた。
「私、テルテにちゃんと説明できてなかった。急に魔王を倒しに行くなんて言われたら、困っちゃうよね」
「え、いや、まぁ……」
「無理に魔王城へ連れていくなんてできない。行きたくなかったら今からでもパーティを解散しよう」
「えぇ……」
さてはこの子、思いつきと思い込みで突っ走る子だな?
とはいえ、魔王討伐かぁ……。
「アイシャ」
「はい」
「魔王討伐はともかく、魔王領には興味があります。だから北を目指していたので」
「え……それじゃぁ!!」
光を取り戻した瞳で、再び見つめられる。
こんな子と一緒に旅をしたら、苦労しそうですが……
「魔王領へ、一緒に行きましょう」
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