はじめての仲間は勇者ちゃんでした ~闇魔法使いの私が魔王を倒しに行くんですか!?~
明桜ちけ
第一章
第1話 闇魔法使いと勇者ちゃん
長い長い微睡みが終わる。
ゆっくりと瞼に差し込む光は、ぼんやりと模様を描き、やがて天井に映る治癒魔方陣だと認識する。
動かそうとする体は酷く痺れていて、指先すら思うように動かない。
「ぉか……ぁ…さ…ぅ……」
バサバサッ!!
重い紙が落ちる音。
お母さんだ。お母さんがそこにいるんだ。
「テルテ?……起きているの……?」
天井の治癒魔方陣を遮り、優しい影が落とされる。不安げに覗き込む影を安心させたくて、懸命に声を上げた。
「かぅ……さ……」
声はうまく言葉にならなかったが、影から落ちる言葉と涙に、意志の伝わりを感じる。
「テルテ!!ああ……本当に……ほ…んと……ぅあっ……」
「ぉかぁさ……た…だぃ……ぁ……」
なんでこの言葉だったのか?
でもずっと言いたかった言葉だった。
お母さん、ただいま。
■■■
治癒魔法陣の中で眠り続けた少女、十年ぶりの奇跡の目覚め。私の回復は珍事として、王都バルコアでちょっとした話題になった。
ちょっと話題になっただけ。
大衆の興味もすっかり薄れた二年後、私は冒険者ギルドに赴いていた。
「それでは冒険者登録を始めます。受付担当のミーアです、よろしくお願いします」
「よっ、よろしくお願いします!!」
私は登録用の必要書類をミーアさんに手渡す。彼女が書類を確認してる間、緊張で顔から汗が吹き出して止まらない。
大丈夫……書類に不備は無いはず。昨日何回も確認したんだから!
「テルテパナさん、十六歳、闇魔法使い……そちらの浮いてるスライムみたいな物体は何でしょう?」
「あっ、この子は……うにぴー」
「ピッ!」
私は手を差し出しながら、うにぴー――私の首周りをふわふわ浮いてるスライムみたいな物体――を呼び寄せた。
「ウニの殻を核に魔力を込めて作りました。戦いも手伝ってくれますし、お友達です」
「ピィ~♪」
「なるほど、ゴーレムのような魔法生物の類ですね。ふふ、かわいい」
ミーアさんは指先で優しくうにぴーを撫でる。そうでしょう、そうでしょう。棘の抜けたウニの殻は美しいし、うにぴーはとっても可愛いのです!
と、語り出してしまうのは良識有る大人の振舞いではない。我慢しなくては……。
「魔法は四属性を習得されていると……お若いのにすごいですね!」
「きょ……恐縮ですっ!」
「テルテパナさんの能力だと、もっと安全で良い仕事があると思うのですが……どうして冒険者ギルドに登録を?」
「えっと……最近は魔物が狂暴化してるって聞いたので、フィールドワークもいいかなって……」
「なるほど……そうですか」
ミーアさんが、腕を組んで私の冒険者登録書を見つめる。自分の書類をマジマジと見られるのは、ひどく緊張してしまうな……。
「では登録を完了させていただきます。改めましてテルテパナさん、よろしくおねがいしますね!」
「はい!」
無事に登録が終わって、緊張がほぐれていく。これから仕事、がんばらないと!
「テルテパナさんは新人なので、必ず二人以上のパーティを組んでから任務にあたって下さい。まず仲間を募るのが、最初のお仕事ですね」
「は……はい!がんばります!」
冒険者登録証を受け取ると、ミーアさんに一礼してロビーへ向かう。ラウンジでは仕事を探したり仲間を募ったりするために、たくさんの冒険者たちが集まっている。
ロビーに併設されている酒場には、似たような服や鎧を身につけた屈強な男性たちがお食事中だ。二十人くらいの団体パーティだろうか、みな歴戦の戦士といった風格を感じる。……とてもとても、私が輪に入れる雰囲気ではない。
「あの、すみません」
クエスト受注のカウンターの前には、赤毛のコボルトと小人族の三人組のパーティがいますね。とっても…可愛らしい!
でも、ということは、人族はお断りなのかな…?
「すみません、そこの方」
あっちにいる背の高い女性から尋常じゃないほどの強い魔力を感じる。もしかしたら、高名な魔法使いや賢者様なのかも。
あの人、私を仲間に入れてくれるかな――
「あのっ!真っ黒ひらひらマントの魔法使いさん!!」
「ひゃっ…はい!」
冒険者に声をかけようと歩み出したところ、背後から女の子の大きな声で呼び止められる。
突然過ぎて、思わず反射的に返事をしてしまった。
振り向いた先には布の服に簡素な胸当てをつけ、古めかしくも立派な剣を携えた女の子。
中性的でカッコイイ、見惚れてしまいそうな顔立ちだわ。スっと姿勢が良くて、剣士さんかしら?
「な……何かごようでしょうか?」
「あのっ、私、新人の冒険者で――」
あ、ということは私と一緒で――
「魔法使いさんも、仲間を探していますか?」
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