第2話 隊長の慕情
2−1
その隊長である男の部屋に、一等兵である
部屋に足を踏み入れると、部屋の真ん中で木机を囲みながら、何やら熱心に話し込んでいる2人の男の姿が目に入った。1人はずんぐりとした巨体の男で、浅黒い肌に縮れ毛という特徴的な風貌が嫌でも人目を引く。
彼の名は
その向かいに座るのは長身痩躯の男で、切れ長の目に鼻筋の通った顔立ちは玄治とは対照的だ。
彼らの名は
「どうや? 功奄。お前に指摘された通り、人員配置表を作り直してみたんやが」
玄治が
「駄目だ。これでは話にならん。兵力は偏っているし、互いの強みを全く生かせていない。一晩考えた結果がこの程度なのか?」
「うーん、あかんか……。何せ部下が倍になったもんで、まだ全員の情報を把握しきれとらんのや」
「泣き言を抜かすな。私はお前の部下の情報も1日で頭に叩き込んだぞ」
「本間か? さすが功奄やなぁ。わしとは出来が違うわ」
玄治が心から賞賛した目で功奄を見つめた。功奄はにこりともせずに鼻を鳴らすと、傍らにあった別の書類に手を伸ばそうとした。
「あの……すみません!」
2人の会話の終わるのを待っていた滝葉は、そこでようやく声をかけた。2人が一斉に顔を上げて滝葉の方を見やる。
「おお、滝葉やないか! いつからおったんや?全然気づかんかったわ」玄治が尋ねた。
「すみません。ノックはしたのですが、お返事がなかったので勝手に入らせていただきました。本日の訓練終了をご報告しようと思いまして」
「おお、もうそんな時間か! いやぁ、ここのところ時間が経つのが早いなぁ。事務仕事しとったら1日なんかあっちゅう間やわ」
「それは貴様の要領が悪いせいだろう。まったく……本来であれば訓練の様子も見に行かねばならんのに、書類にかかりきりでは本末転倒ではないか」功奄が呆れ顔で言った。
「まぁ、わしはお前みたいに頭が切れるわけちゃうからなぁ……。自分がなんで隊長なんて要職に就けたんか今でも疑問やわ」
「部下の前でそのような発言をするとは……。隊長の風上にも置けん男だな、貴様は」
功奄が心底呆れたようにため息をついた。玄治の方が立場は上であるはずなのに、彼はいつもこうして功奄の
だが、それでも玄治はれっきとした隊長であり、功奄も補佐という自分の立場を受け入れている。2人がこの関係に至るまでには長い道のりがあり、そこには苦い戦いの記憶もあった。だが今、こうして2人が新部隊の要として協力している光景を目の当たりにすると、あの苦杯にも意味はあったのだと滝葉には思えるのだった。
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