8月30日
どれくらい眠っただろうか。雨の音は小さくなっている。蒸し暑さはなくなったが、寒いくらいだ。今日こそどこか落ち着ける場所に移動して、ちゃんとナツの呪いを解く方法を考えないと。
起き上がって水を飲もうとペットボトルを手に取る。空っぽだ。私が無意識に飲み干したんだろうか、それともナツか。ナツをみた。
ナツだと思っていたのはナツの鞄にタオルを掛けたものだった。
「ナツ?」
社の中を見渡したけど誰もいないし、返事もない。
ナツの気配が遠い。
そう感じたらいても立ってもいられなくなって、私は社を飛び出していた。息はすぐに上がったし、体が痛い。それでも引っ張られているのか、すがりついているのか、私はナツを無我夢中で追った。
まだ早い時間なのか、人も車もほとんどない。雨も音もなく静かに降っている。服が雨に濡れて重くなっていく。
「ナツ」
呼ぶと呼応するかのように気配が強くなる。
それをたどっていくと、最初に野宿した橋が見えてきた。橋の上にナツがいた。
「ナツ」
呼びかける。ナツは振り返らない。欄干から身を乗り出して川を見下ろしている。そしておもむろに欄干に上り始めた。
「ナツ!」
走る。手を伸ばす。体を投げ出したナツのシャツを掴む。ぐい、とナツの体が重力に引っ張られた。一瞬、ナツと目が合った。
目を細めて、笑っていた。
そのまま私たちは濁流に落ちた。
誰かの叫び声が遠くから聞こえ、遠のいていった。
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