8月28日
昨日、ナツが動けるようになってからパワースポットと言われる神社に移動した。住宅地から離れ深閑とした境内は人が手を入れている様子はなかった。本当にパワースポットなんだろうか。なんか廃墟みたいだ。
それでも雨風は防げる。社の扉は鍵がかかっていたみたいだけど朽ちて壊れ簡単に入れた。中は空っぽで、埃や砂が積もっている。雨のせいか少しかび臭い。
「絶対、誤情報じゃん」
ネットの情報は正確ではないと分かっていたけどこんな正反対なことあるか。濡れた体を拭きながら、次にどうしようかと考えているとナツが何かつぶやいているのが聞こえた。
「ナツ? どうかした? 水飲む?」
膝を曲げて座り、うなだれていたナツが顔を上げる。
「子を取り上げたのが良くなかった」
はっきりと、でもナツとは違う低い女の声だった。
「側室が男児を産んだのが許せなかった。正室である私はいまだ女子のみ。あの子を育てて私の子にしたかった。側室は謀反人とつながっていると言えばすぐに追い出すことが出来た。私の息がかかった者が噂を広めてくれたのだ」
考えるそぶりも言葉に詰まる様子もなく滔々と語り続ける。
「だけども、あの子はどんどん恐ろしくなった。気に入らない者は傷つけ、追い詰め、殺そうとする。私の娘も2人いびり殺された。私はなんとかあの子を殺そうとしたけど、出来なかった。そのうち、旦那様が亡くなった。夕餉を食べているときに突然。血反吐を吐きながら死んだ」
カビの匂いの中、ほんの少しさびの臭いも感じた。雨も一層強くなる。
「あの子を殺さなければ。でも先にそう思っていたのはあの子だった。ある夜息苦しさで目を覚ますと、あの子の顔がすぐ目の前にあった。首を絞められていた。助けてくれる者は誰もおらず、私は気を失った。気がついたときには、私の葬儀は終わっていた。私の魂はあの子が作った人形の中にあった。私の憎しみは利用された。人形にされた私を大事にしないものを呪い殺す。生き残った私の娘が受け継ぎ、私はあの世に行くことも出来ずにいまだ人形の中にいる」
静かになった。小さな寝息が聞こえる。ナツは寝ていた。軽く肩を揺するとすぐに目を覚ました。
「なんか、壮大な物語を語っていたんだけど」
ナツは覚えていなかった。私が聞いたことを伝えると、力なく笑った。
「気にしなくて良いよ。たぶん嘘だから」
「え?」
「呪いの嘘だよ。耳を貸しちゃダメ」
そう言って少し水を飲むとまた目をつむった。ナツはその日、ずっと眠っていた。
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