8月24日

 ナツがと誰かとしゃべっている声で目が覚めた。寝ている部屋の外で話しているみたいだ。時間を見ると既に昼の12時を回っている。他人の家でこんなに爆睡するとは自分でも驚いた。

「ハル、学校から電話があったって」

 部屋に戻ってきたナツは少し焦っていた。

「学校?」

「ハルがいないって母親から連絡があったって」

 飛び起きた。ついに家出に気付かれたか。両親からしたら私が行くところはお婆ちゃんの家か中学、高校の友達の家しかない。ただ私の友達なんて一人も知らないだろうから、学校に連絡したんだろう。こんなに大事にされるとは思わなかったけど。

「それで、どうなったの?」

「お母さんが電話に出てくれたんだけど、お母さんハルがその行方不明の子だって最初気付かなくて『知らない』って言ったらしいんだよね」

 私の名前に「ハル」と呼ばれる要素がない。呼んでいるのはナツだけだ。

「でもお母さん、嘘付けない人だから次電話かかってきたらまずいかもしれない」

 私たちは急遽ナツの家を出ることにした。私もこれ以上他人に迷惑は掛けたくない。

「ちょっと遠回りしていこうか」

 とナツが言い出した。

「どういうこと?」

「夏休みだからさ、ちょっと旅行気分を味わいたい」

 ナツは楽しそうに近くのビジネスホテルで楽しめるビュッフェやモーニングのホームページをスマホで見せてきた。そんなに食べるの好きだったかと不思議に思ったけど、これまでずっと私の家出計画に巻き込んでいたのだから、一泊ぐらいの寄り道は付き合おう。

 ナツの家からお婆ちゃんの家までバスで行けるけど、私たちは一旦、電車で隣の駅まで行ってホテルに一泊することにした。

 ツインの部屋はすぐ取れた。夕食に行く前に荷物を整理していたら

「あ!」

 とナツが声を上げた。ナツの手には真っ黒の呪い人形があった。

「持ってきたの?」

「いや、付いてきた」

 ナツが硬い表情で言う。私はナツが家を出る前に人形を箱に入れ、さらにクローゼットに入れ、その前に本棚を移動させていたのを見ている。

 ナツは人形か、呪いか、それを撒くためにホテルに泊まろうと言い出したのだろうか。私が戸惑っていると、ナツは人形をポンと自分の鞄に投げ入れた。

「さ、ご飯食べに行こう!」

 いつものように笑って見せた。

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