8月23日

 鳥雄はナツの家まで運転し慣れているようで、静かで安全なドライブだった。結局私は一度も鳥雄の声を聞いていない。

 ナツの家に入ると玄関先でナツのお母さんが靴を磨いていて、

「ちょっと、夏都、その怪我どうしたの?」

 と声を上げた。けどすぐに私の顔にも同じ怪我があると気付いて、すっと黙ってしまった。引いたんだと思う。

「ただいま。ハル、今日泊まるけど良いよね」

 お母さんは目をそらして小さく首を縦に振る。ナツは気にしてないようで了解をもらったという反応だった。さっさと靴を脱いで部屋に向かうので

「お邪魔します」

 と挨拶して追いかけた。

「ちょっとこれ見て」

 ハルが黒い炭のようなものを手のひらにのせて見せてきた。

「何これ?」

「呪いの人形だよ」

 よく見たら確かにこんな形をしていた。布が燃えてしまってなくなった様だった。

「燃やしたの?」

「気がついたらこんなになってたんだよね」

 鼻を近づけるとちょっと生臭い。

「腐ったのかな」

 とナツは言うけど、何もせずに、こんなことになるだろうか?

 

 夕方ごろにナツが一度私の家に電話してみた。

「中学まで一緒で、久しぶりに会いたいけど、スマホの連絡付かなくて」

 と声色を変えて話し、何も知らないふりをして「そうなんですか~」と適当に相づちを打った電話を切った。

「どんな感じ?」

 ナツは珍しく慎重に言葉を選んで

「うーん、まだ気付いてないかも」

「え?」

「声が、普通というか」

 たぶん関心ないという口調だったんだろう。というか、忘れていたのかもしれない。ちょっと状況確認をしたかったけど、思い出させてしまいそうで、危険な行動だったかもしれない。

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