8月9日
コールして3回目でお婆ちゃんは電話に出た。
『もしもし』
お婆ちゃんの声。引っ越しして半月も立ってないのに、もう懐かしさで胸がいっぱいになる。
『もしかして、咲ちゃん?』
「うん、お婆ちゃん、元気だった?」
『元気よ、そんなことより、あれからどうしてる?』
お婆ちゃんの家からほとんど無理矢理に実家へ戻されてから連絡を取っていなかった。心配させてしまったのかもしれない。
「ごめんね、連絡できなくて。なんか、電話しにくくて」
『ううん、いいのよ。元気なの?』
「まあ、元気だよ」
電話口でほっと息を吐く音が聞こえた。
『私も電話したかったけど、あんまり口出しするのも、ねぇ?』
お婆ちゃんはガラケーは持っているけど目が悪くて電話しか使わない。そして最近は耳も悪くなってきているらしいから、あまり電話もしたがらない。
「大丈夫だよ。でも、私ずっとお婆ちゃんに迷惑掛けてたって気づいてなかったから、謝りたくて」
『謝る?』
「私のせいで、生活が厳しかったんでしょ?」
一瞬の沈黙の後、『ふふっ』と笑い声がした。
『そんなこと気にする様になったのね、咲ちゃん。でも子どもが心配するようなことじゃないのよ』
「でも」
『子どもの生活のことは大人が考えないといけないのよ。それに、咲ちゃんと生活して楽しかったことや、嬉しかったことはあっても、辛いと思ったことはないわよ』
「本当に? 無理してない?」
『そうよ。逆にお婆ちゃんと一緒でわがままも言えなくて辛かったでしょ』
「そんなことないよ」
返す声が掠れる。本当に、お婆ちゃんの家は居心地が良かった。穏やかで自由だった。
「お婆ちゃんと住めて私はすごく良かったよ」
それから一言二言言葉を交わして電話を切った。お婆ちゃんは本当に私を気遣っているみたいだった。父と話してからずっと胸がつかえていたが、お婆ちゃんと話して楽になった。やっぱり私はお婆ちゃんの家に行きたい。一緒に暮らしたい。
電話中にナツからメッセージが来ていた。
『寝ている間に人形が布団に入ってきてた』
という文章とまた真っ黒に塗られたような画像が添付してある。
『撮れないなら送ってこなくて良いよ』
返事をしたら数秒で
『確かに!』
と返ってきた。ナツは呪いに怯える様子も悩んでいる様子も見せない。一緒に呪いを解くという話になっているけどそれに関してはあまり乗り気じゃない。設定として楽しんでいるには、ちょっと違和感があった。
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