8月10日

 小さい頃の夢を見ていた気がする。まだ幹人が生まれる前の夢。それなのに私はお婆ちゃんと一緒に住んでいて、それが当たり前だと思っていた。そんな甘い夢を見ていたのに耳障りな着信音によって現実に引き戻された。

「もしもし」

『お、寝てた? おはよう。もう昼だけど』

 寝過ぎてしまった。頭が痛い。

「で、何?」

『従兄とハルの話してたら、お金いるんじゃないかって、短期バイトなら紹介してくれるみたい』

 私はベッドの上で居住まいを正した。そう、バイトは必要だと思っていた。いくらお婆ちゃんが私に甘くても現実の問題はそんなに甘くない。

「いいの? 高校生でも」

『大丈夫だよ。シフトも融通が利くらしいし、交通費も出るんだって。8月いっぱいだけらしいけど』

「全然OK。どんな仕事?」

『それは面接の時に教えてくれるって。明日大丈夫?』

 急な話だけど迷っている時間はない。私はそれも了承した。

「私、バイトはじめてなんだけど、どんな服着ていけば良いのかな」

『私もはじめてー。ドキドキするね』

 何故かナツははしゃいでいる。どんな仕事かも知らないのに暢気なものだ。

「場所とか時給とかも面接行かないと判らない感じ?」

 家の帰りが遅くなると父母に怪しまれ、バイトとばれたら給料も取り上げられてしまうかもしれない。さらにバイトをした理由を問い詰められたら最悪だ。

『作業する場所は県内に何カ所かあるから、近いところに行かされるみたい。日給は10万円だって』

「え? なんて?」

 聞き間違えか?

『作業は何カ所か・・・・・・』

「それじゃない、その後」

『日給? 10万円』

「それは、あってるの?」

『何が?』

「バグってるよね?」

『えー、従兄のメールにはそう書いてあるよ?』

 なら、書き間違いかもしれない。そうに違いない。働いたことがない私にだって判る。そんな高額な仕事、怪しいところかヤバいところじゃないと、意味が分からない。

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