8月8日
夏都――ナツは呪いのことは気にするなと言ったけど、一応呪いの人形というものを見せてもらうことにした。というよりナツが見せたがった。というわけで今日初めてナツの家に行った。
ナツは普通のマンションに住んでいた。呪いの人形が長女に伝わるとか言うから由緒正しい歴史のあるお家柄とイメージしていて、大きな一軒家でも出てくると思っていたから意外だ。別に何かを期待していたわけじゃないけど、イメージと外れて拍子抜けしている自分がちょっとおかしかった。
「こっちだよー」
そんな私の気にする様子もなくナツは私を自室に案内した。ナツの部屋は勉強机、本棚とソファベッドがある、これもまた普通の部屋だ。変な子だからといって部屋が散らかっていたりナイフや骨なんかが飾ってあるわけじゃないらしい。呪いの人形はあるけど。
「これだよ」
ナツがペンケースほどの大きさの木箱をクローゼットから出してきた。薄い蓋を開く。ふわっとほこりっぽい匂いが鼻をついた。
木彫りの頭と胴体に色あせ、何かの染みが付いているような茶色く汚い布が巻き付いている。
「壊したって言ってたけど・・・・・・」
「ああ、これね」
ナツが人形を箱から取り出してふいに突き出してきたから、私は思わず受け取ってしまった。箱の底から4本の棒が出てきた。4本とも取り出して見せてくれた。両腕両足なんだろうけど同じようなただの棒だ。
「洗濯したくて服を脱がせようとしたら、頭以外全部取れちゃったんだよね」
「直せないの?」
「仕組みがよく分からなくて。お婆ちゃんに聞きたいけど、もう人形に関わりたくないって連絡付かないんだよね」
そこで開け放たれたドアからすっと女性が入ってきた。お盆にジュースとドーナツが乗っている。何も言わず、机にお盆を置くとそそくさと出ていった。
「今の誰?」
「お母さんだよ」
私の家とは違う感じで不仲なんだろうか。いや、どことなく力が入っているように見えたから緊張していたのかもしれない。大人が自分の子どもの友達に緊張するなんて事あるのだろうか。まさか、人形に?
「人形の由来とか、従兄経由で聞いてみてるんだけど口が重いみたい。また何か判ったら知らせるね」
生返事をしながら、私は手に持った人形がずっと小刻みに震えていることを気にしないように努めていた。
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