ショタコン女勇者は、ショタ魔王を倒せるのか

秋雨千尋

もしも魔王がものすごく好みのタイプだったら

 突如現れたモンスターの猛攻撃を受けて、人間達は絶滅の危機に陥った。

 神官ミラ、盾兵アーランド、そして聖剣を携えし女勇者サラ。

 世界を救うために立ち上がった三名は、各地で魔物を殺戮しまくり、四天王も亡き者にして、遂に魔王城の最上階にたどり着いた。


「よくきたな、ゆうしゃよ。われが魔王レオンなり」


 玉座にチョコンと座るのは、幼稚園児ぐらいの男の子だ。青白い肌に白黒反転のクリクリの目。ふわっとした綿菓子みたいな髪から羊みたいなツノが生えている。

 勇者サラは膝をついて顔を押さえた。


「死ぬほど可愛いじゃないですか!」


 興奮状態の勇者をなだめようと、神官は杖から精神安定の魔法をかけようとするが、小さな球が飛んできて阻止されてしまった。


「むしするな!」


「パチンコで上手に飛ばせましたね〜あなたの手作りかな? すごいですね〜。でも人に向けて打ったら危ないからダメですよ〜?」


「やべえ、勇者が本職である保育士モードに入っちまった。まさか魔王がこんなガキとはな」


「ガキではない。われは五っ、コホン。七つだぞ!」


「サバの読み方も可愛い! お姉ちゃんなんて十歳は誤魔化すのに」


「はあ!? バラすんじゃないわよ!」


「え、ミラさん。本当は32……?」


「きさまら、もうゆるさんぞ!」


 魔王が右手を前に出す。

 盾兵が前に出て、神官が守る、いつもの陣形だが、肝心のアタッカー勇者が機能していない。

 これでは耐えることしか出来ないが?


「食らえ! ダークネスファイア!」


 手の平からパンパンパーンと火花が生まれて、キラキラしながら消えていった。


「線香花火じゃないですか!」


 興奮のあまり床を殴りだす勇者を神官がなだめ、血だらけの手を治療する。


「次だ。食らえ! ディープブルースラッシュ!」


 手の平から細長い水がピューと飛び出し、前衛の盾を少しだけ濡らした。


「水鉄砲じゃないですか!」


 壁に頭を打ちつける勇者を神官が羽交締めにして、血だらけの額を治療する。


「次で最後だ! ジェノサイドトルネード!」


 魔王は部屋の中に設置されていた鉄棒まで歩いて行き、真剣な表情でつかむと、えいっと床を蹴ってクルンと前回りを成功させて着地した。

 盾にそよ風がふりそそぐ。


「風車じゃないですか!」


 勇者は顔を押さえてひっくり返り、右に左にゴロゴロ転がっていく。

 神官はあきれて立ちすくむ。


「くっ、ちからぶそく、か……ちちうえ、われもそちらにまいります……」


 魔王の涙声を聞いた勇者はスクッと立ち上がり、瞳に光を宿して叫んだ。


「幼い子供を守るために勇者になったのに、幼い子供を泣かせるわけにはいかない!」


 そして数多のモンスター達を葬ってきた伝説の聖剣を高く掲げて──「フンッ」という掛け声と共にバキッと真っ二つにした。


「ちょっとおおお!」


「なにやってんだ勇者あああ!」


 神官と盾兵の渾身のツッコミを受け流し、勇者はひざまずいて魔王に願う。

 どうか配下にしてくださいと。

 魔王は涙を浮かべた大きな目をパチクリさせてから、満面の笑みで受け入れた。


「ミラさん、こうなったら俺たちだけで戦うしかない」


「ええ、私も同じ気持ちよ」


 再び玉座に収まった魔王がうーんと伸びをすると、ふわふわの髪がうんと伸びて服装もドレスになった。

 そして慌てた様子で言う。


「やだ、まほうがとけちゃった。おんなだとバレちゃう!」


 困ったように自分に魔法をかけるも、ドレスの色や形が変わるだけ。

 やがてシクシク泣き始めた。


「おにいさま、わたくしもうダメ。こわいひとたちに、ころされてしまうわ……」


 盾兵は深呼吸をして、数多の戦場を共に駆け抜けた相棒を高く掲げると、床に叩きつけて足で踏み壊した。


「何やってるのアーランド!?」


「すまねえミラさん。俺はアラサー女子より男装女子に仕えるわ」


「はああああ!?」


 盾兵は魔王にひざまずき頼み込んで、配下になることを許可された。一人残された神官は怒りに体を震わせている。


「どいつもこいつも……若けりゃいいってモンじゃないのよ。けど私一人じゃ戦えないし、仲間を呼んでこなくちゃね」


 そう言って魔法陣を書いたタイミングで、突風が吹いてよろけたところを、誰かに抱きとめられた。

 白い髪をキチンとまとめた、スーツ姿の片眼鏡の老紳士だった。


「お怪我はございませんか、お嬢様」


 優しい微笑みを浮かべた老紳士を凝視した神官は、数多の傷を直してきた神から賜りし聖なる杖を高く掲げて、勢いよく壁に投げつけて破壊した。

 そしてひざまずき魔王の配下になったのだった。



 ──こうして。

 勇者一行は魔王の手に落ちた。彼らはモンスターとして生まれ変わり、愛する魔王のために嬉々として戦った。

 世界は魔物の楽園となり、人間は滅びた。


 終わり。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショタコン女勇者は、ショタ魔王を倒せるのか 秋雨千尋 @akisamechihiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ