第3話 音楽塔事件


 これで十人目。

 百合亜は次から次へと来る刺客を撃退している。

「ようやく分かったぞ……お前達は奏の歌を悪用するつもりなんだな……!」

 過去、燃える東京タワーと泣きじゃくる少女二人。

 思い出される悪夢から幼馴染を開放するために。

 再び百合亜は跳ぶ。

 そこに現れるパワードスーツ部隊。

 戦争でしか配備されていないはずの最新鋭機だ。

「邪魔だ、ひしゃげろ」

 それを重力で圧縮する。

 地球上にいる以上、百合亜に勝てる者などいない。

 重力を加速、中和、制御出来る彼女に敵などいるはずが無かった。

 そう、思っていた。

 突如、身体が地面に引っ張られる。

 それは

「重力使い!?」

「はぁい、元気ぃ?」

 そこには悪趣味な事に血で染まったような赤ずきんの恰好をした少女が居た。

「あんた分かってんの? 音楽塔から歌が放たれたら私達、異能力者は……」

「これがあるから大丈夫でぇす!」

 それはヘッドフォンだった。きっと特殊な加工がしてあるか。

「そんなものでまかせに決まってる!」

「じゃあ命令違反で殺されろとでも!?」

「埒が明かない! 押し通る!」

 重力使い同士の力比べ。アスファルトにひびが入る。

 黒い渦が巻き、力が凝縮されていく。

 疑似的なブラックホールが生まれつつある。

 このままではライブどころではない。

 しかし――

「二度と奏の歌を悪用なんかさせない!」

「はっ! 亡霊はおねんねしてなぁ!」

 重力操作、ブラックホールを天空へと。

 太陽光を集める。

「なにを――!?」

「漫画で読んだのよ」

 極光が赤ずきんへと墜ちた。

 凝縮された太陽光は少女を蒸発させるに余りある力を有していた。

 百合亜は汗をぬぐいながら音楽塔へと一気に跳躍する。

「ライブを台無しにしないで音楽塔から歌を拡散しない方法……そうか出力装置だけへし折れば!」

 そう決めると一気に音楽塔の天辺へと飛び上がった。

 そこには巨大なスピーカーがあった。

「これを壊せば……」

「そうはさせないわよ」

 ゴスロリ服の少女。

「お前は――!!」

「久しぶりね百合亜、奏は私の事、分からなかったみたいだけど」

「プロフェッサー! 何故生きている!」

「奇跡的、いえ、不運にも生き残ってしまったのよ」

「また繰り返す気か!」

 アリシアは金髪をかきあげて笑う。

「そう! 今度こそ私はあの子の歌で異能力者を駆逐する! 音楽塔で増幅強化されたあの子の歌は世界中に拡散されて異能力者を蝕む毒になる!」

「させない! 奏の歌は人を喜ばせる歌だ! 誰かを悲しませる歌じゃない!」

「じゃあ通ってみなさい! 此処は地獄の門と知りながら!」

 爆発が連続した。空中が突然、破裂したのだ。

 それはアリシアの異能であった。

 しかし。

「届かないよ」

「まだだ!」

 雷撃、水流、火炎放射。数多の異能が百合亜を襲う。それら全てを束ねて混ぜてこね合わせた。

「化け物め……!」

「塔の装置ごと死ねッ!」

 重力と異能の塊をぶつける。

 それは弾けて花火にも似た色とりどりの光になった。

 そして歌が始まる。

 ――百合亜聴いてる?

 ――聴いてるよ奏。

「――僕達は出会った長い長い旅路の果て」

 奏の歌声は純粋に天高く響いて百合亜の耳朶を打った。

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song of frontline 亜未田久志 @abky-6102

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