第9話
その日から1年後、私達はささやかな結婚式を挙げた。
それから数年して、透はインターネット関連の会社を立ち上げた。
それより運よく順調に来た。
33なった年には人世が生まれた。
春山の母を時折招いては、孫を抱いてもらった。
母もその頃には、わだかまりはないようであった。
私が40代になる頃、母は大病を患った。
透や学と相談のうえ、我が家に来てもらった。
娘との関わりが良かったのか、10年以上を生き延び、昨年亡くなった。
私は大学ノートを居間にあるテーブルの引き出しからそっと出した。
それから何ページにもなる、私のドラマを書き出した。
3日後ようやく終結して娘に手渡した。
次の日のランチの事である。
娘が言った。
[母って結構苦労人だったんだね]
[そうねぇ ビックリした?]
この娘もう読んだのかしら。
全て隠さず書き綴ったのだけれど、大丈夫だったかしら。
娘を見ると
[大丈夫だよ。でも小説より奇なりとはこうゆう時に使う言葉だね。
ところでさぁ
母の妹さんって今どうしているの]
と聞いてきた。
妹か、4年前に会ったきりだな。
と思った 。
中田の母が亡くなって、葬儀に呼ばれて行った時
桜がポツリ、ポツリと話し出した。
[姉さん、母さんを恨まないでね。
それに父さんも、、、]
私は少し微笑んでみせた。
桜が続けた
[本当はね、本当は父さんは私の父さんではなかったんだ。
でも、母さんは父さんが好きだったから、、、私も父さんの子供だと思いたかったんだって。、、、]
[え、そ、それ 本当の事、、、]
[そう、母さんが姉さんに伝えてって、、、
姉さんは、母さんと父さんの子供に間違いないって。
父さんは姉さんを引取ってから、母さんにとっては生活費を送ってくれるだけの人だったみたい。]
私の気色が変わっていたのを、桜も判っていたと思うが続けた。
[その数年間に母さんは他の人と恋をして、私を産んだのだけど、事情があってシングルになったのだそうなの、
父さんはそれを知ってから面倒を見させて欲しいって言ったのだそうよ。]
[え!それは本当に、、、]
[本当よ。姉さん小学生の時に家に来たでしょう?
父さんはいつもあんなふうに私と遊んでくれて、夕飯を食べて帰る人だった、、、
だから、、、
姉さんが沢井のおばさんの事を思って心配していた事は何も無かったんです。]
あの日
(誰も憎んだりしていないよ)
そう言ってあげたかったけれど、突然の告白に戸惑ってしまったから、、、
[母]
娘の声に我に帰って、
私は言った。
[あぁ桜とは4年前に会ったきりだけれど、なかが悪いわけではないのよ。年賀状のやり取りはしているし。
会えたのは産んでくれた母の葬儀以来だけれど]
[そうなんだ、、、おじいちゃんの事、、、恨んでる?]
[うーん、真実が分かった時は恨むというのではないけれど、なんとも言えない複雑な気持ちだったわね。
でもそんな事が無かったら、きっと私はわがままで自分の頭上にある空しか眺めようとしなかった気がするわ]
[そうなんだ]
[それに桜から事実を聴いて、父が優しい人だった事が分かったから私は救われた。
今は桜の事も、何かあった時は助けてあげたいと思う自分がいるの。
ただ、嫉妬という感情は本当に恐ろしいと思った。]
[うん、でも人間の中には大なり小なり、その感情は有るものだと思うわ]
[そうね、おじいちゃんの事があってから、それを深く意識するようになったわ、
おじいちゃんはおばあちゃんを愛していたからだろうけど]
両親には大切に育てて貰った。
中田の母の事も恨んだりしていない、私を生んでくれたことは感謝している
自分は嫉妬の炎が芽生えた時、どれだけの水を汲む事が出来るのだろうか。
今も課題である。
[母、私書きたい。いい?]
ひらめきの中で生きている娘は、もう先に進んでいるようであった。
[そうね、両親も他界しているし、あなたが書くなら2人も怒らないでしょう。
でも主役は父にしてね。
あの人がいなければ、私はどうなったか分からないわ]
娘は瞳をキラキラさせて言った。
[解った。ネェ、題名は、、、パラプリュイなんて、どう]
フランス語で傘。透が主役なら良いのではないかと思った
私は言葉の変わりにピースをして見せた。
parapluie 傘 @k-yumeji
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