第4話

父の延命治療の話しは、本人の意向があった

と母から私に連絡があったので、自然のままという事になった。

やっと母と連絡が取れて、父の手紙にその事が書かれていた事を知った。

何か他に書かれていたかについて尋ねたが、必ず話すからもう少し待ってと言って、何一つ語ろうとしなかった。


その10日後に 父は無言のまま危篤を迎えた。

病院から連絡があり、病室についたのは夕方6時頃であった。


10分後に病室のドアが開いた。

母であった。


[ママ、、、遅いじゃない]

責めてはいけない。何か事情があるはずだから。

そう思っていたのだが険しい顔を見せていたのだろうか。


[静香さんや、学には迷惑をかけたわ。

本当にごめんなさい]

[そんな事を言っているのではないのよママ。

いったいパパと何があったの]

母は無言であった。


[パパはママに悪い事をした、私にもだと言っていたの、何の事か聞かせてくれないままこんな事になって、、、]


[そう、あの人が、、、]

母は父の方を見てから目線を上にあげた。

それからハーッと息を吐いた。

そして学を見つめて言った。

[学悪いけれど30分位お父さんをお願い出来る]

[分かった。だけど俺にも教えてよね]

学は母を見ずに目線を下にしながら言った。


母は院外に出ると左に向かい真っ直ぐと歩いた。

私も痩せた背中を追いながら黙って歩いた、

1、2分歩いた先には公園があった。


入口を入るとベンチが見えた。

私達は中央にあるそのベンチに腰を下ろした。

母は空を見上げながら。

[まだ頭の整理が出来ていないの。

だから、私が今話す事は支離滅裂かも分からない、、、ごめんね。]

と口を開いた。

母の大きな瞳が潤んでいた。

こんな時普通なら何も聞かずに側に寄り添っていたい。

そう思ったがまるで遺言のように告げた父の言葉が、自分を縛り付けて身動きが出来ない気がしていたのである

父の思いを聞かずにはいられないのであった。


母は暫く黙っていたが、思い切ったかのように話しだした。

[そうね、あなたも学ももう大人ですものね。

それにあの手紙は私だけに宛てたものではないようだし、、、

あの人ね。、、、浮気していたの。

あなたも1度行った事があるのでしょう?]


私は不意をつかれて言葉を失った。

母は

[いいのよ。言わなかった事を責めている訳ではないの。あなたの優しさだった事も分かっているから、、、]

[ごめんなさい、、、]

[分かっているわ。]

母は右手で右足の太ももを膝に向かって何度も指すっていた。


そして言った。

[あの人の娘さんは17歳になるのね、

あなたに似ていた?]

私は慌てて

[似てない、似てない。私はママに似てるもの。]

母は再び夜空を見上げながら

[そうね。]

と答えた。

私は母に似ていると思いたかったけれど、本当は自信がなかった。


[ババの手紙、、、私達にも見せてくれない?]

私が母の動く右手に右手を重ねて言うと、

母は慌てた様子で、

[ごめんなさい、破いて捨ててしまったのよ]


何か隠している。

直感した。

[ママ、何でも話して。他に何か書いてなかったの]


母の顔色が変わった

[忘れたわ、あなたが気にする事はないのよ]

そう言って下を向いた。

母の頬は濡れて光っていた。

私がハンカチを差し出すが、母はスカートのポケットからハンカチを取りだして顔をおおうようにあてた。

そして言った。

[パパはずるいわよね、今頃になって、、、

こんなんじゃ責める事だって出来ないじゃないの]

私はなすすべがなく、足下の土を眺めていた。


その時はまだ、父の手紙に重大な真実が書かれていた事を知らなかった。



その日から2日後。

父は息を引き取った。

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