第6話立ち入り禁止

 ナコの住む街には踏み入ってはいけない場所が存在する。踏み入ってはいけない理由は、靴の裏が汚れるからである。


「全く、みんな俺達のこと避けていきやがってよ、失礼なヤツらだな」


 そう愚痴をこぼすのは雲知うんち家の長男、那芽流なめるだ。彼の父親は日本有数の資産家であり、皆から嫉妬されているのだ。小中高と虐めを耐えてきた彼の精神はもはや人の域ではない。


「兄ちゃん、また学校で虐められたよぅ」


 三男の投流なげるが泣きながら那芽流にしがみついてきた。彼の一家はお金持ちということで、いろいろな方向から恨みを買っているのだ。別に何かしたという訳ではなく、ただの一方的な恨みだ。そのせいで臭いだとか無根拠な悪口を言われる。


「あの家ですか? 普通の人は近づかないでしょうね」


 テレビ番組でのインタビューでもこんなことを言われている。確かに家もうんこまみれだし、車もうんこ、敷地も全部うんこだけど、これは俺達が悪いんじゃない。


 あれは父さんと母さんが海外に行ってしまった日のことだ。子どもだけになった俺の家の庭に、父に恨みを持った大人たちがわらわらと集まり、野グソをしていったんだ。その臭いのせいで野犬や野良猫にトイレと間違われ、排泄物はどんどん増えていった。そして終いにはこの有り様だ。屋根から野グソをばら撒く者、車の上からばら撒く者、家の中に侵入して用を足す者までいた。海外で仕事中の父さん母さんはこのことを知らずに過ごしているだろう。


 プルルルルルル。電話の音だ。また嫌がらせの電話だろう。支払いの電話かもしれないので一応出てみる。


「もしもし」


『もしもし、うんこ大好き太郎と申します』


 ほら、イタズラ電話だ。


『もし良かったら、あなたの家を売って欲しいんです。うんこ大好きなので』


 俺達の家を買いたいとは、神のような人だ。俺は二つ返事でOKした。その後引越し、うんこの臭いもしなくなり虐められることもなかった。

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