第5話ナコの1日を紹介するよ!

 こんにちは、ナコです! 今日は私の1日を紹介するよ! 私は平日は朝4時に起きて、2mある髪の手入れをします! それから駅まで自転車で15分走ります!


「ナコ、おはよー!」


 友達のサンバサンバブンバボンバだ。基本誰かと一緒に登校することはないが、たまたま友達と会うこともあるので、そういう時は一緒に行くことにしている。ちなみに妹はいつも寝坊するので置いてきている。


「おはよー! サンバサンバブンバボンバ!」


 月曜日ということもあり、周りの人はみんな元気が無さそうだ。でも、私は違う。金曜日に憧れの三村くんと初めて話せたからだ! 三村くんはカッコよくて賢くて、めちゃくちゃマッチョなの!


「ナコ、この前露出狂が出たらしいんだけど知ってる?」


 確かにこの前露出狂もどきと乗り合わせたが、彼は捕まらなかったはず。またあいつが何かやったのだろうか。それとも別人だろうか。


「知らないなぁ」


「また出没するかもしれないから気を付けようね」


 サンバサンバブンバボンバが不安そうな顔をしている。電車に乗る時間はせいぜい10分ほどなので、私はあまり気にしていない。


『まもなく互生ごじょう駅〜、互生駅〜、お出口は左側です。開きますドアにご注意ください』


 学校の最寄りの駅である。ここから20分歩けば私たちの学校、悪餓鬼屯やんきたむろ高校に着く。なぜこんな名前なのかというと、夜になるとどこからともなくヤンキーが現れ、学校の半径1km以内にある電柱に3人ずつたむろするからだ。こいつらは何をされても電柱から1m以上離れないため、地縛霊ではないかと言われている。


「あ、サンバサンバブンバボンバ! キレイな玉子焼きがジョギングしてる!」


「玉子焼きに生きる権利はない! おりゃーぁ!」


 サンバサンバブンバボンバは玉子焼きを蹴飛ばしてしまった。


「なんでそんなことするのよ!」


 私は問いただした。


「玉子焼きが生きてちゃあかんでしょ。ましてや走ってるなんてもってのほかだよ」


「せやな、まさしく正論やな」


 そんなことを話しているうちに学校に着いた。サンバサンバブンバボンバとは同じクラスなので、4階まで一緒に登る。上靴に履き替える時に下駄箱でいつも誰が来ているのかを確認する。私はけっこう早い方なので、上がいると対抗心が燃えるのだ。いつものように下駄箱を見渡す。


(あれ、三村くんいつもこの時間には来てるのに⋯⋯どうしたんだろ)


 まあ、そういう日もあるよね。と、私は気にすることもなかった。それよりも、この階段がキツい。私は体重が160kgあるのでなかなか堪える。


「おはよう、諸君!」


 私たちの担任の松田先生だ。この人はいつもタニシを食べている。この前、子どもしか愛せないと言っていたためみんなから嫌われるようになった。

 松田先生は最近イルカに乗って学校に来ている。4階までそのままイルカで登るのだ。私は辛くても自分の足で歩いてるのに、ずるい。


 そんなこんなで教室に着いた私たち。1時間目の用意を机の上に出し、始まるまで読書をするのが日課だ。


 あと2分で来ないと遅刻なのに、三村くんどうしたのかな⋯⋯寝坊したのかな、と考えているうちに時間になってしまった。


「みんなおはよう。悲しいお知らせがある、心して聞いてくれ」


 もしかして三村くんに何かあったの⋯⋯?


「一昨日、学校近くの公園で爆発事故が起きてな、三村が巻き込まれたそうなんだ」


 え⋯⋯なんで⋯⋯なんで三村くんが!


「それで火星まで吹っ飛んで、今は火星人として暮らしているそうだ。命に別状はないとのことだ」


 良かった、生きてたんだ。


 それから1時間目を丸々使って三村くんの状況を聞かされた。三村くんは今火星を食べて生きていること、水はあること、火星にSOSと掘ったが、人類にはまだ救助出来ないこと。

そして、三村くんにはもう会えないこと。望遠鏡で三村くんを見た人が、三村くんが何を言っているのか読唇術で見てみたところ、「みんな、僕のことは忘れてくれ」と言っていたという。


 それを聞いた皆は泣いていた。多分、私が1番泣いたと思う。でも、忘れてくれとの事だったので皆忘れることにした。2時間目からは滞りなく授業が進んだ。


「ナコ! 今日も部活あるの?」


 あさひちゃんが聞いてきた。私の友達で、4つの部活の部長を務めている。そして、学校一かわいい。


「もちろんあるよ!」


「新曲楽しみにしてるね!」


 あさひちゃんは我らネチネチ部の活動を1番楽しみにしてくれている。今日も頑張らねば!


「チャッス!」


 私は勢いよくドアを開け、元気に挨拶した。


「あ、部長、チャッス!」


 そう、私は部長なのだ。この子は1年生のルリちゃん。目がクリッとしていてかわいい。たまに包丁を隠し持っているのでそこだけちょっと怖い。


「チャッス、ナコ!」


 この子は麤珠美ぞじゅみ。よく私の家で遊んでいるメンバーの1人だ。

 さて、ネチネチ部の活動を始めましょうかね!


「部長! 今日は私が持ってきました!」


 ネチネチ部の活動は主に2つ。ひとつは優等生の愚痴を学校中から集めること。もうひとつはそれをCDに吹き込んで校内で売ること。昨年は生徒会長のCDで校内のレコード大賞を受賞した。


「今日の体育の授業で、かけっこがダントツで速かった男子がいたんですけど、走り終わった後クラスの女子にめちゃくちゃ話しかけられてました!」


 良い僻みがたくさん集まりそうな案件だ。今日はこれで行くか。


「ルリちゃん、よくやった! では明日の放送で流そう」


 ターゲットを決めたら、次の日の昼食時の放送で全校生徒に愚痴を募るのだ。3日後に募集を締め切り、その中から選りすぐりのものを録音する。


 この後ゲームをしたので帰るのは19時過ぎになった。いつも忘れてしまうのだが、この街では夜にヤンキーの幽霊が出るのだ。うるさいので出来れば避けたいが、ゲームが盛り上がってしまったのでしょうがない。


 帰り道は麤珠美ともルリちゃんとも方向が違うので、基本ひとりになる。


「おめぇどこ中だぁ? コラァ」


 早速現れた。聞こえない聞こえない。1m以上は移動出来ないんだから。


「おめぇびびってんのか?」


 聞こえない聞こえない。


「あ? やんのかてめー?」


 聞こえない聞こえない。


「おい聞いてんのかブス!」


 聞こえるわ! 超聞こえるわ!


「死ねぇ!」ドン!


 ヤンキーの霊をすり抜け、電柱に直撃する拳。私の拳を受けた電柱は徐々にひび割れ、遂には倒れ始める。電線はちぎれ、通行中の自動車と、道を挟んだ反対側にある家屋を下敷きにしてしまった。


 これだから夜は嫌なんだ

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