第2話お知り合い
こんにちは、ナコです! 私の家の近所の団地にはいろんな人が住んでるんですけど、今日は私と仲のいいカップルのお話です!
「あら、ナコちゃんいらっしゃい!」
この綺麗なお姉さんは私のお友達のミサさん! いつも笑顔で優しくて、来る度にお肉を食べさせてくれるの!
「ナコちゃん、すき焼き好きかしら?」
「わーい! だーい好き!」ドーン
あまりに嬉しくてはしゃぎすぎちゃった。右手が当たってミサさんのお尻を吹っ飛ばしてしまった。
「ごめんねミサさん、お尻大丈夫⋯⋯?」
「お尻飛んでった」
やってしまった。私は昔から力が強すぎて、触るものを皆傷つけてしまう。小学生時代のあだ名はラオウだった。
「え、お尻? お尻がどうしたの?」
ミサさんの彼氏のサワダがお尻という言葉に反応して、奥の部屋から出てきた。サワダは変態なのでこういうワードを聞くとすぐに飛んでくる。変態を尊敬する必要は無いのでいつも呼び捨てにしている。
「ごめんね、興奮してるところ悪いんだけど、私お尻ないんだ。さっき吹っ飛んでったの」
「な、ないのか⋯⋯ホントに」
サワダが唖然としている。申し訳ないことをしてしまった。
「本当にごめんなさい⋯⋯」
謝っても謝りきれないことだけど、せめてもの⋯⋯
「おい、尻が無いってのは本当か!」
玄関先からドスの効いた男の声が聞こえる。ガチャリ。ドアノブを回す音がする。当たり前のように入ってくる大柄の男。
「邪魔するぜ。で、尻が無いのは本当なのか」
「ないんです、ほんとすいません! 来月中にはまとめて返しますんで、どうか今日のところは⋯⋯」
サワダが謝っている。私のせいなのに。私が謝らなきゃいけないのに、恐くて声が出ない。ごめんなさい。
「うちもなぁ、道楽でやっとる訳やないんよなぁ。こっちも困っとるんや」
怒らせてしまったようだ。私のせいで2人が何かされたらどうしよう。サワダはともかく、ミサさんだけはどうか⋯⋯!
「また来るぜぇ」
震える私を見て気を遣ったのか、今日は引き上げてくれた。聞き分けのいい尻取りさんでよかった。
「ちょっと洗濯してくるね⋯⋯」
ミサさんが元気なく言った。洗濯をしている間、サワダはずっと部屋の角を見つめていた。猫かよ。
「来月尻取りが来るまでに用意しないとな⋯⋯」
サワダが困った顔をしている。こういう時に盛り上げるのが私の役目!
「りんご!」
私は今日いちばんの元気な声で言った。
「ゴルゴ!」
ミサさんも協力してくれた。
「ゴブリン」
サワダはやっぱり嫌いだ。そう思ったその時、ドアが開いた。
「コラコラいちゃついてるんじゃねーよ! 下まで聞こえてたぞ! どうせ尻を撫でてイチャついてたんだろ?」
さっきの尻取りだ。完全なぶちギレ状態といったところか。
「だから無いって言ったでしょ! さっき吹っ飛んだの!」
先ほどは抑えていたミサさんも怒りが限度を超えたのか、爆発してしまった。
「じゃあその本来尻がある位置についてるぶりんぶりんなものはなんだ!」
本当だ。よく見ると巨大なお尻がある。倍くらいになってる。どっかに吹っ飛んでったと思ってたけど、叩いた時に凹んでて、今腫れて大きくなったってことかな?
「これはさっき川で拾ったやたら大きい桃を装着してるの! あ、動いた⋯⋯桃子が私のお桃を蹴ったのよ! 出たいのかしら? フン!」
ぶりぶりスッポーン!
桃(尻)から生まれた桃太郎(※男の子でした)
「じゃあ俺犬ー!」
サワダがはしゃいでいる。
「じゃあ私ナレーター!」
ナレーター!? ミサさんナレーター!? え、じゃあ私は⋯⋯
「ナコは猿やる!」
あ、恥ずかし⋯⋯歳上の人達と居ると自分のことをナコって言っちゃうんだよね。これ学校でたまに言っちゃうからここでも言わないようにしなきゃ。
「じゃあ俺は解説だな」
おい尻取り、お前キジじゃないのかよ。キジ無しかよ。なんだ解説って。
「おっとここでサワダがダウン! ナレーターのミサさん、今のはいい尻でしたね〜」
ナレーターに聞くの!? 解説が2人になっちゃうよ!
「ええ、いい尻でした! 次のバッターは竹内です!」
ミサさん、桃太郎のナレーターはそんな事言わないよ!
「ここでサワダ、尻を構えた! 撫でる! 撫でる撫でる撫でる! すごいぞこの猛攻は! ⋯⋯という冗談は置いといて、おめェら尻取り舐めとったらあかんぞ。ちゃんと来月払うんやぞ。こちとら前屈手届くんやからな」
「なんだって!? じゃあ強いに違いない!」
よく分からない脅し方をされたサワダが怯えている。
「やあ、ぼくはおしりだよ!」
あ! ミサさんのお尻! 帰ってきたんだ! ていうか男だったんだ!
「お納めください」
サワダはミサさんのお尻を差し出した。
「帰ってきたばかりなのに、知らないおじさんに引き取られるなんて⋯⋯」
お尻が嘆いている。だいたいサワダも彼女にだけ尻を払わせて、自分はなんなんだ。
ちょっとイラッときた私はサワダをつまんで外に放り出して鍵を閉めた。その後お尻の場所がぽっかり空いたミサさんと、桃太郎と3人ですき焼きを食べた。
「この上なくバランスボールに座りやすい。鬼のように馴染む」
ミサさんは嬉しそうにそう言っていた。
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