第60話 候補者(1) <2031年6月>
〜田中一雄side〜
私たちは風馬殿から特別なミッションを受けている。
そう、配下重視系のプレイヤーの選別だった。指示を受けているプレイヤーの選別条件は以下の3つである。
・ステータスポイントは【配下】へ全振り
・【配下】D級以上
・人格に問題が無い
妻の和美が、すべてのチャットを隈無く探って、D級モンスターを所持していることを絞り込む。そして、その情報を元に地域を絞り、接触が可能な範囲かどうかを判別する。
更に可能であれば、絞り込んだターゲットの状況をチェットで調べ上げ、加盟の可能性があるかどうかの当たりを付ける。ここまでチャットで確認できるのは難しいが、可能な限りは絞り込みを妻が行う。
その絞り込んだリストを基に一人ひとり偵察を行い絞り込んでいく。
この偵察のフェーズになると、私と娘の美咲の出番となる。
「次はこの人だな。」
今日も私と美咲は外出してターゲットの偵察をおこなっている。
斉藤和人(さいとう かずと)、23歳。ちょい長めの髪でメガネっ子。性格が大人しく自分に自信が無いって感じに見える。中郷某同盟に加入しており、目立つような存在ではないが、同盟を影でサポートしているようだった。
暫く偵察している感想としては、決して頭が悪いようではなく、要所で仲間へ援軍を送るなどしており、的確にサポートしている。
仲間からも「援軍助かった。」などと声をかけられていたので、間違いないようだ。
私たち家族は読唇術をマスターしているので双眼鏡を使って相手の会話などを的確に読み取ることができる。
人格、性格的にも問題なしと判断したが、同盟員と上手くいっているようで、勧誘の成功率は残念ながら『低』とした。
そろそろ偵察を切り上げようとした時、事件が起きた。
辺りが暗くなり始め大きな獣のバケモノの姿が見えた、そうフィールドボスが現れたのだった。
人の身長の2倍以上はありそうな巨体に犬の頭が2つ付いており、足が6本あるフィールドボスだった。
そのボスは、今回の偵察ターゲットである斉藤和人の同盟の近くに現れた。
斉藤たちにとっては、目と鼻の先にフィールドボスが現れたので運が悪いとしか言いようがない、まさに青天の霹靂であった。
「ウワー。」「キャァーーー。」などという大きな叫び声が100m以上離れたこちらまで聞こえてきた。
というのも、このボスはスピード型であり、素早い動きで周りのプレイヤー達を次々と攻撃していった。
それによって、かなりのプレイヤーが犠牲になっただろう・・・。
「美咲、同盟チャットで風馬殿へ連絡しろ。それと、ここからいつでもすぐに離れられる状態にしておけ。」
「わかりました父上。」
「父はもう少しターゲットの状況を確認する。こういった窮地にこそ、人の本性と言うものが現れるものだ。」
美咲が風馬殿たちと連絡を取っている間に私はターゲットの偵察を続けた。
こういった場面でどういう立ち振舞をするのかは、かなり貴重な情報となる。
〜斉藤和人side〜
僕は『神聖騎士団』の斉藤和人だ。
会社の同期たちで組んだ同盟で、高萩市で活動しているが、拠点は高萩市と隣接している中郷工業団地に置いている。
◯ : 北茨城市(他者領地+未開拓地)
△ : 高萩市(他者領地+未開拓地)
◉ : 風馬領地
◆ : ねーちゃん領地
▶ : 涼真領地
◎ : 中郷工業団地
【地図】※横向き推奨
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僕は運動音痴で動くことより、頭を使った方が得意なので、ステータスポイントを【配下】に全て振って、みんなをモンスターでサポートしようと考えて行動している。
自分が前線に立って行動しなくても、モンスターを先頭にして戦うことでレベルも上がるし、日本人ランキングも上げることができて、なんとか『審判の日』を乗り越えられた。
同盟員も消極的な僕の事を蔑む者もいないので、本当に良いメンバーに恵まれたと思っている。
これからどんどんと領地を拡大させて、まず高萩市を我が『神聖騎士団』が統一することを目指している。
同盟員もバランスが良く構成されている。
【力】重視が2人、【魔力】重視が1人、【創造】重視が1人、【配下】重視の僕が1人の合計5人である。
前線で戦うメンバーの方がレベルが上がるのが早いが、配下重視の僕も敗けて無くレベル4まで上がっている。紅一点の【創造】重視の早川愛華だけが、レベル3と遅れている。それは仕方がないことだった。
僕と愛華はサポート役なので、何かと拠点で2人きりになることがあり、いつしか僕は・・・愛華の事が気になるようになってしまった。
今日は久しぶりに5人で領地拡大を行うことになり、拠点を離れて獣人たちとの戦闘が繰り広げられているポイントへ来ている。
「愛華と和人はなるべく後方から仕掛けてくれよ。一郎と俺が前線で獣人たちと戦うからサポートをよろしく。」
「昨日結構やりあったから、今日は獣人たちは休んで、モンスターだけが守備をしていると思うがな。」
昌光と一郎が話していることは当たっている。
ここの牛の獣人たちは一日おきにプレイヤーが現れる事が殆どで、今日は現れない予定だ。
「わかった。」僕がボソッとつぶやく。
「わかったわ。昌光も気をつけてね。無理しちゃダメよ。」
「おいおい、愛華。昌光だけじゃなくて、俺の心配はしてくれねーのかよ。」
「一郎、お前は大丈夫だろう!!愛華もありがとう。」
「はいはい。一郎も気をつけてね〜。」
「昌光のついでかよ。ちょっとやる気無くなってきたぁ〜〜。」
まあ、いつもの感じである。
そう、僕は愛華を気になっているが、すでに愛華は昌光と付き合っていた・・・。
『神聖騎士団』のまとめ役であり、先頭でいろいろと指揮をとっている昌光に愛華が次第に惹かれて行った感じで、いまでは付き合っている。
愛華から「昌光の事が気になっているから、付き合うために協力してちょうだい。」と相談されたときのショックはデカかったが、それも今では昔の話だ。
吹っ切れているが、男は女々しくて、どうしても多少引きずっている……。
ただ、昌光から愛華を奪い取ってやろうとは全く思っていない。
昌光も良いやつで信頼しているし、2人の事をこれからも見守って行きたいと思っている。まあ、僕も良い人を見つけたいですっていうのが本音だ……。
頭で考えることを口に出すと、自身の無さから小声になってしまう・・・。これを直さないと良い人も見つからないか・・・。
分かっているのだが、人前だとどうしても大きな声が出ない・・・。
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おまけ
<風馬派閥>
・恋人 : 2人 ミレーネ、高橋奈緒
・従属配下 : 9人 ミレーネ、ナビル、ジェイド、サミュエル、田村秀樹、高橋奈緒、田中一雄、田中和美、田中美咲
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