第51話 巨大な木(1) <2031年4月下旬>
高萩市での攻防から数日経ち、北茨城市中郷町の海岸線はだいぶ落ち着きを取り戻している。
特に高萩市から市を跨いでこちらへ攻撃してくる同盟もいない。
高萩市内の領地を占領した同盟は、今回獲得した領地の配分やその後の守備などに時間をかけているのだろう。
確かに高萩市の攻防の次の日、それまでの争いが嘘だったかのように高萩市からの攻撃は無かった。
領地配分でいろいろとプレイヤー同士で話し合いが始まったのだろう。
あんなに多数の同盟が参加したのだから、収集がつかなく相当な時間を要すると思っている。
実際にその通りのようで高萩の攻防の報酬配分結果について、文句や愚痴がチャットに書き込んであった。
有用な情報が勝手にチャットへ流れてくるのでこっちとしては助かっている。
どこまで鵜呑みにして良いのかは別だが…。
その報酬の不平不満が次の火種となり、後に高萩市内での更なる混乱を生み出したのだった。
今回の一連の騒動は、涼真さんへ多数の同盟の交渉をさせて手一杯にする事も計画の内と考えている。
そして、俺たちと『高萩連合』を戦わせて防衛力を削ぎ、領地を手薄にするなどいろいろな事が仕込まれていた。この黒幕については、まだ掴めていない……俺たちにした事を後々後悔させてやるつもりだ。
まだまだ、高萩の攻防の報酬配分について決着がつかないので、暫く高萩の同盟から攻撃されることは無いだろう。
それから更に数日経った。
北茨城市中郷町の周辺が突如にして不自然に曇りはじめた。そう、マンガのドラゴンボー◯で玉を7つ集めて、神龍を呼び出した時の様に急に天候が変わったのだ。
その数分後、何か凄い嫌な感じのような違和感がしたので辺りを見回すと、遠くの方で巨大な木が暴れている光景が見えた。
昔からあった大木が動き出した訳ではなく、本当に突如として巨大な何かが動き出した感じだ。
その巨大な木がいる方から他プレイヤー達が逃げ出している。
「っえ、何でみんな領地を跨いで移動できるんだ?」
そう、そのプレイヤーたちは領地の縛りを無視して人々が逃げ回っていた。
俺も移動出来るか確かめて見ると、すんなり他の領地へ移動する事ができた。
なぜか知らないが、辺りが暗くなり、あの巨大な木が現れたら領地しか移動出来ないとの概念が崩れた・・・。
この混乱した機会に領地拡大をと思いその場で、「占領」を行ったがそんな都合よく出来なかった。
改めて他プレイヤー達を見ると、いくらでも移動出来る訳では無いようで、ある程度の場所から先に進めないようだった。
「距離なのか?場所なのか?その辺りは検証が必要だな。キーポイントはあの巨大な木で間違いないだろう。」
この情報をチャットで仲間と共有した。
そしたら数時間後、早速ねーちゃんが中郷町へ巨大な木のバケモノを見にやって来ていた。
流石戦闘狂のねーちゃんだ、直ぐにでもあのバケモノへ向かって行きそうな勢いである。
巨大な木は移動しながら、次々と建物や人々を攻撃していた。この状態が続けば中郷町がグチャグチャになって廃墟とかしてしまう。
まあ、既に結構な範囲で建物が壊されている。
実際の生活には、地上の建造物は影響がないのだが、気分的に廃墟だと……そう、気分的な問題だ。
〜田中一雄side〜
私は田中一雄、52歳。長年この中郷町に住んでいる。
みんなが『審判の日』と呼んでいた日を何とか家族3人みんなで協力して乗り越えた。
趣味はちょっと珍しいといわれるが、リアル忍者だ。
家族揃っての忍者マニアである。
妻との出会いもそう忘れもしない〜〜(省略)〜〜。
私たち親子の影響で子供も忍者マニアである。
私は世界がこんなになってから、不謹慎かもしれないが本物の忍者のようになれるのではとちょっと胸が高鳴っていた。
そして、良く漫画などに登場する身体能力の高いリアル忍者になるため、ステータスを力重視で振っている。
そのおかげか、体力も以前以上についたし、2mほどの塀などならジャンプで越えられるほどだ。本当は忍術にも憧れはあるが、【魔力】にもステータスポイントを振ってしまうと、中途半端な忍者になりそうでやめている。
娘は魔力重視の忍法使いで、妻は配下重視の忍者軍の総司令である。
今日もリアル忍者の修行を加味した領地巡回をおこなっている。
そんな中突如、辺りが暗くなり始めた……明らかに周りの様子がおかしい。
次の瞬間、数十m先に巨大な木のバケモノが現れた。
体長10m以上ありそうな巨大な木で、枝が手の様に見える。
根っ子を足の様に使って、そのバケモノは移動出来るようだ。
誰かの召喚したモンスターだったら……勝てそうもない。
そう思っていたら、向こうの方からプレイヤーたちが普通に逃げて来る。
そう、普通に移動しているのだった。
私たちも領地の概念が除外されているのか確かめてみると自由に移動が出来た。
「美咲、ここから南東50m付近に巨大な木のモンスターが発生した。お母さんへ拠点に隠れているようにチャットで伝えてくれ。」
「いま母さんへは連絡しておいた!それにしても父さん、あの怪物はなんなのかしら……。」
美咲も俺が指さした方に現れたモンスターを高い位置に登り確認している。
「父さんは危険が及ばない範囲で偵察してくる。美咲はどうする?」
私はいつも娘に対して自分の考えと理由を答えされ、その内容を可能な限り尊重している。
「……私も父さんに同行して怪物の偵察をしたいわ。これもかなりの忍者修行になると思うの!こんな機会は滅多にないもの。」
娘は巨大な木のバケモノとの対面による死のリスクより、修行や好奇心が優っているようだった。
まあ、そう言うだろうと想像していたが、やはり予想通りだった。
「わかった。この任務はかなりレベルが高いと思われる。一瞬の隙が命取りになる可能性があるので、気を引き締めて取り掛かる事にする!」
「わかったわ!それではいきましょう!」
私と美咲は最低限のモンスターを連れて行動に移った。
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おまけ
<風馬派閥>
・恋人 : 2人 ミレーネ、高橋奈緒
・従属配下 : 6人 ミレーネ、ナビル、ジェイド、サミュエル、田村秀樹、高橋奈緒
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