第28話 年越し
ある日。
ミレーネたち従属配下たち4人と一緒に食堂で夕食を取っていたときのこと。
「なあフーマ、前々から新鮮な魚を食べたいと思っていたんだがどうにかならないか?」
「フーマさん僕も魚食べたいっす。」
獣人のナビルとサミュエルがそう言い出した。
「新鮮な魚か〜。創造だと生きた魚は召喚できないんだよな(生きているがモンスターは別なのが不明だが)。近くの川でヤマメ、イワナ、ニジマスなどが釣れるはずだから、それでも良いか?」
「お、おぉー。食べられる魚だったら何でもいいぞ。」
「じゃあ、冬場であまり釣れないかもしれないが、明日は久々の休みにしてみんなで行ってみるか。」
俺が久々の休みを提案し、ナビルが賛同してくれ渓流釣りに行くことにした。
「フーマさん、私は敵の攻撃があるかもしれませんので、防衛に残ってます。お土産よろしくお願いします。」
ただ、真面目なジェクトは領地の防衛に残ってくれるようだ。
涼真さんやねーちゃんも助けてくれるが、全部お任せなのは気が引けるので、素直に助かる。ジェイドありがとう。後で美味しいお魚お土産に持ってかえってくるからね・・・。
「フーマ私は一緒にいくぞ。魚釣りは前の世界でよくやっていたからな。」
「僕も行くっす。」
ミレーネ、サミュエルも参加するつもりのようだ。
「じゃあ決まりだ。ジェイドに防衛を任せてみんなで行こう。
7時にはここを出るから、6時50分までに家のリビングに集まってくれ。」
俺、ナビル、ミリーナ、サミュエルの4人で明日釣りに行くことになった。
もちろん、釣り道具は既に用意してある。
というより、俺の趣味の1つに釣りがあり、実家に釣り道具がおいてあるのだ。
ロッドもリールも趣味で何本も持っているので、4人分くらい余裕で用意できる。
海釣り、渓流釣り、バス釣りといろいろと幅広くやっていた。
俺は1人で実家の葛城道場へやってきた。
ねーちゃんは既に自宅(涼真さんの主拠点)へ帰ったようで、代わりにモンスター達が巡回していた。
そのまま物置へ行き、お目当ての釣り道具を回収して、ねーちゃんの自宅を訪ねた。
「こんばんわー。ねーちゃんいる?」
「風馬良いところにきた。そろそろ年越しじゃない、こんな世の中になってしまったけど何かやる?」
俺は用があって来たのに、先にねーちゃんが先に用件をいい出した。
「あぁ、もうそんな時期なんだ・・・。こんな世の中だけど、折角家族で無事に集まれた訳だし確かに何かやりたいね。」
「そう言ってくれてよかった。 お節と年越しそばを用意して、ささやかながらみんなで食事会でもしましょう!」
「いいね。場所はどうする?俺の家で良ければ場所を貸すよ。この前思い切って大型改造したんだよ。」
そう、この前、結構なDP(ダンジョンポイント)を費やして我が家は、最新高級旅館へ変貌したのであった。
「あらそう?だったらミリーナちゃんとのお住まいを拝見しに行こうかしら。涼真が今お風呂に入っているから、私からこの事を伝えておくわ。」
「わかった、よろしく。あと、酒も飲むよね?適当に用意しておくわ。」
「気が利くわね!もちろん、お酒もよろしくね。」
そういって俺は年末の予定を決めて、自分の用事を忘れてそのまま家へ帰るのであった。
「そういえば、用があってねーちゃんところ行ったのだが、話すの忘れたわ…。
ってか、何話そうとしてたか思い出せん……。っま、大した事ないだろう。」
夜になって、ふと、ねーちゃんに話すことを思い出した。
「明日、釣りに行ってくるから何かあったらよろしく」と一応お願いしておこうとした程度だった。
同盟チャットへ連絡を入れて、ねーちゃんと涼真さんから『了解』との返信が来た。
「たくさん魚が釣れたらお土産として渡そう。」
◇◆◇◆◇◆
次の日の朝6時50分。
ミレーネ、ナビル、サミュエルたちがちゃんとリビングに集合していた。
偉い偉いって、俺が最後なんだな・・・。
「おはよう。ちゃんとみんな揃ってるな偉いぞ。」
「おはよう。そりゃそうだろ、新鮮な魚が取れるんだからな。」
「おはようございます。そうっすよ。主拠点内の川には魚がいませんし、この森の中の川には入れないから魚が取れなかったす。」
俺が挨拶し、ナビルとサミュエルが返事した。
ミリーナとはベッドの上でおはようのあいさつを済ませている。
「昨日の夜に考えていたのだが、今回多めに魚が釣れたらこの地下拠点の川へ放流したり、人工授精して繁殖させるのはどうだろうか? 数が増えれば、釣りもできるし、手づかみで取ることもできる。いつでも新鮮な魚が食べられるので、いいと思うのだがどうだ?」
「それはいいわね。私は賛成よ。」
「俺も大賛成だ!!食べたいときに好きなだけ新鮮な魚が・・・・・食えるんだなグフフ。」
「僕も賛成っす。ぜひ今回の釣りを成功させましょうっす。」
「いつでも魚を食べられる環境になれば、ジェイドも喜ぶだろう!」
全員食い気味に賛成してくれたのだった。
「ありがとう。だったら今回は絶対に成功させよう。気合を入れて頑張るぞ!!」
そういうと、俺たちは華川町に流れている花園川へ向かった。
釣りが出来る状態の竿・リール・仕掛けをつけた道具をみんなに配り、釣りのやり方をレクチャーした。
こんな世界になって、誰も釣りなんてやってないのだろう。
入れ食い状態で、良型の魚(イワナ、ニジマス)を釣ることが出来た。
ミレーネなんてキャッキャと騒いでいた。
なんとも可愛らしい。
冬場なので釣果に期待が持てなかったが違った。
春先に放流された魚がそのまま手つかずでおり、釣り人もおらずスレていなかったので良型の魚の大量ゲットに繋がったのだろう。
お昼までの4〜5時間で1人あたり20〜30匹釣れている。
結局、イワナとニジマスで合計108匹の釣果があった。
釣果は、この通りだ。
1位 サミュエル 32匹
2位 ミレーネ 31匹
3位 俺(風馬) 25匹
4位 ナビル 20匹
サミュエルとミレーネが1匹差で優勝を争っていた。
最後の最後までミレーネが勝っていたが、残り10分でサミュエルが立て続けに3匹釣り優勝をさらっていった。
優勝といっても、何か商品があるわけでもなく、ただのお遊びだ。商品が掛かっていれば、俺も本気をだしていたのだが・・・。
ナビルがこんなはずはないと時間の延長要求をしてくるが、無視した。
放流のため生け捕り用に大きなバスタブのような入れ物を用意しておいて正解だった。
水を入れると相当な量入ったので凄い重さになったが、レベルアップの影響なのか男3人ですんなり持ててしまう。
食べる魚20匹を確保して、それ以外は予定通り地下の居住区の川へ放流した。
もちろん上流・下流には魚が逃げない用に柵などを設けるなどして工夫をしている。
繁殖に成功するのか、今後が楽しみな案件だ。
食べるように確保した魚の内蔵を俺は丁寧に処理して、竹串にさし塩を振り、焚き火のでじっくり焼いてから、みんなに振る舞った。
「「「「うっま〜い(っす)」」」」
みんな大満足で、お酒も進み最高な休日でした。
たまには、こうやって何もかも(陣取りバトルを)忘れてのんびりみんなで過ごすのも良いと思った。
もちろん放流後、魚の捕獲禁止エリアを設けると共にモンスターたちに川の魚の乱獲禁止を命令した。
我慢をさせると戦闘などのパフォーマンスに影響を与えるかもしれないので、魚の捕獲禁止エリア以外は、ある程度自由に魚を取って良いことにしている。
捕獲禁止エリアは比較的広いので、魚が全部取られていなくなる事はないだろう。
魚の養殖の件もあって、家のカスタマイズほどではないが、川にも力をいれ改善した。
岩場を作ったり、小さな滝なども作って、釣りを楽しむ事ができるポイントをいくつも用意した。これは、俺の趣味でもあるので、いいだろう・・・・。
魚が増えるかどうか、本当に今後が楽しみだ。
◇◆◇◆◇◆
もちろん、日々遊んでいるわけではない。
各地での戦闘は続いているが、ココ最近は大きな侵略などは起こっていない。
ただ、今回たまたま連チャンで休日の話をしているだけであり・・・・今日がたまたま大晦日なだけだ。
ミレーネ、ナビル、ジェイド、サミュエルたちは、既に料理や飲み物を準備して席に着いている。
もちろん、領地の防衛が全くないわけではない。
モンスターたちが万全の防衛体制を敷いているので大丈夫だろう。
無いかあれば、直ぐにでも連絡が入ることになっている。
「「こんばんわ〜。おじゃましま〜す。」」
予定通りねーちゃんと涼真さんが家へやってきた。
「こんばんわ。待ってたよあがって。」
「こんばんわ。リサさん、リョウマさんあがってください。」
俺の後にミリーナがついてきて、ねーちゃんたちを一緒に出迎えてくれた。
「風馬!!なんでこんな良いところに住んでるのよ!DPの無駄遣いじゃない?」
「大丈夫だよ、というかこのくらいの快適さがないとやっていけないよ。でかい風呂とか地下室にカラオケもあるから後で案内するよ。」
「っえ、っえ、っえ。そんなのまで作ってあるの!涼真〜私達の家もリフォームしましょうよ。DPを多少使っても大丈夫でしょ?」
ねーちゃんさっきまで無駄遣いとかいってたくせに……。
そして、ねーちゃんの目が結構怖いことになっている。
「そ、そ、そうだね。今度、理沙の要望も聞きながら一緒に考えようか。」
今は涼真さんの主拠点で2人は生活しているので、そこの拠点をカスタマイズするようだ。
「ってかさ、ねーちゃんは武器も創造しないし、モンスターも召喚しないんだからこの際ねーちゃんの主拠点にDPをふんだんに使ったドデカイ豪邸でも建ててみればよくねぇ?」
「それよ!涼真聞いてた!? そうしましょう!」
「わかったよ理沙。後日取り掛かろう。今日は大晦日だしこの話は後でな。」
ねーちゃんと涼真さんの間で一旦家の改築については話がついたようだ。
一通りみんなであいさつを済ませると早速用意していた食事をみんなで食べ始めた。
食事の途中で涼真さんがDVDとプレイヤーを取り出して家のテレビへセットした。
このテレビはDPを使って創造したものだ。
大抵の電化製品は、DPを使えば揃うので便利だ。
DVDの中身は、なんと『笑ってはいけない◯◯』シリーズだった。
もう、大晦日の定番の一つとなっているテレビ番組だった。
数年前の作品を持ってきていた。
お酒も入っていることもあり、ときにはテレビを見て笑ったり、みんなと会話したりと大いに楽しんだ。
最後に『年越しそば』をねーちゃんが用意してくれていたので、それをみんなで美味しくいただいた。
「また来年もみんなと年越ししたいな……。」
ボソリと俺は呟いた。
「……そうね。」
俺のつぶやきに隣に座っていたミレーネが反応して答えてくれる。
そして、俺の肩に頭を載せて少し体重を掛けてきた。
「これからもよろしくな・・・・。」
ミレーネにだけ聞こえるくらいの声でつぶやき手を握った。
ミレーネも俺の手を握り返してくれた。
そして年は明けていくのだった。
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