第二話


「常冬の惑星」(第二話)


         堀川士朗



ビュオオオオオオ。

ビュオオオオオオ。

風が強い。

底冷えする。


寝室は特に防寒に力を入れている。

冬になると明け方の最低気温はマイナス80℃を下回る。

外へ出たら一瞬で凍え死ぬ。

コテージの中は安住の地だ。

常に寝室には暖かい空気を送り込み、室内に設置した断熱テントの中に寝床を作り、ヒーターが内蔵されている寝袋で眠る。

泥のように一日12時間以上はぐっすりと寝てしまう。

寒いからだ。

眠りを欲するのだ。

僕はコアラみたいなものだ。

『他人』という天敵がいないため、長く眠れるのだ。

至福。



地下施設で家畜を飼育している。

飼っている鶏は機械が自動的に解体して鳥料理にする。

僕は鳥胸肉が嫌いだ。パサパサしているから。

ももばかり食べている。

だから解体した鳥胸肉は地下牧場施設で飼っている豚の餌に混ぜている。

おかげで豚は脂が乗り美味な事この上ない。まさに一石二鳥だ。

全て磐石だ。

僕しあわせ。



じっとしていると、芯まで冷える感じがするので少し運動してあたたかいコーヒーを淹れた。

飲んで、無心になる。

雪の音がする。

もう、虫の音や鳥の鳴き声を聴く事も出来ない。

でもそれは別に寂しい事じゃなかった。

季節感とやらを全部排除した上で、この生活は成り立っているし、僕は充分満足していた。

ブリザードだか何だか分からない突風が吹いている。

ビュオオオオオオ。

ビュオオオオオオ。

雪の音がすさまじい。

風の音。

死の音。

心地良い音。

眠るにはちょうど良い子守唄だ。

人の声がない。

気配もない。

うるさい、やかましい他人がいないってのはこんなにも素晴らしい世界なのか。



今日は雪が止んでいる。

僕は二台ある偵察用無人飛行エアロバイクを起動させて、近くの街に(近くといっても数十キロは離れている)偵察に行かせた。

上空から撮影した画像が、リビングの大スクリーンにリアルタイムで送られてくる。

そこには、凍りついた街と、凍りついた人々の姿が映し出されていた。

微動だにせず、街は一切の営みを停止していた。

世界中がこんな感じだ。

もう人類は赤道上にわずか0.2%が生き残るのみで、それもコロニーの中での縮小された原始的社会に過ぎない。

僕はAHAHAと嗤った。

これだよ!

これこそが、僕が望んでいた世界の崩壊だ!

全て磐石だ。

僕しあわせ。



この土地は都会から離れた僕だけの私有地。

誰も来ないはずだけど、近いうちに、このコテージを誰か訪れるかもしれないな。

しかもそれは綺麗な女の子だ。

何で分かるかって?

ほら、僕予知能力あるからさ。

かなり精度が高い予知能力。

どうしようかなー。

AHAHA。



           続く


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