上級素材を確保する

「うーん、やはり、この辺りが限界か」


 魔剣は性能によって七段階の評価がつく。最高がSで次がA、そしてFが最低評価となる。試行錯誤の甲斐もあって、Cランクの聖剣なら安定して生産できるようになった。しかし、Bランクが遠い。村で採取できる素材と農協で買える素材の組み合わせではやはり限界があるのだろう。さらに上を目指すなら、多少の危険を冒してレア素材を手に入れなければならない。


「採取依頼を出す手もあるが……やはり品質は自分で見極めたい」


 あとは護衛を雇うかどうかだが。短時間やり取りするだけならともかく、四六時中行動を共にするとは息が詰まる。積極的に魔物を討伐するわけでもないんだ。一人で十分だろう。


 聖剣農家として、魔剣はそれなりに扱えるという自負がある。もっとも、それは剣技に優れているという意味ではない。聖剣農家に伝わる秘技があるのだ。それは魔剣の性能を強引に引き出して強力な一撃を繰り出す技――剣魂解放。引き替えに魔剣が壊れてしまうが、出荷できなかった規格外品が大量に余っているのでそれらを使えば問題ない。


 剣魂解放には他にもメリットがある。壊れた魔剣から、剣の種が採れるのだ。高品質の魔剣からは品質の高い剣の種が採れる。良い魔剣ができたら、積極的に剣魂解放で壊して、次代の魔剣のクオリティアップを図るのも戦略のひとつだ。


 背負い籠に入るだけの魔剣を詰めて、いざ素材採取。ランクBの聖剣を作るとなると、狙い目の素材はユニコーンの糞だな。もちろん、欲を言えば角が欲しいところだが、そうなると戦いは避けられない。糞なら隙を見て確保できるだろう。ユニコーンがいるのは西の森だ。あそこは素材の宝庫だから、他にも色々と手に入るだろう。



「剣魂解放――ヘイルブリザード!」


 氷の魔剣から力を吸い上げ、解き放つ。力を失った魔剣が砂のように崩れ去ると同時に、周囲には氷の嵐が吹き荒れる。舞い踊る氷塊が、モンスターたちに襲いかかった。Cの氷の魔剣を使い潰しただけあって、包囲していた魔物たちを殲滅することができたようだ。


「ふぅ……。一対一ならともかく、複数で囲まれると剣魂解放を使わざるを得ないな」


 用意した魔剣も半分ほど使ってしまった。できれば節約したいところだが、敵に囲まれてしまえば、そうも言っていられない。魔剣を惜しんで命を失うわけにはいかないからな。


「だが、ユニコーンの住処は近い。どうにか目的は果たせそうだな」


 少し歩いたところで、木々の切れ間が見えてきた。目的地の泉だ。陽光をうけて水面がキラキラと輝いている。ユニコーンは清浄な泉のほとりに住むといわれる。この辺りに住処があるはずだ。幸いにして、留守にしているようなので今のうちに見つけてしまいたい。


「ここだな」


 住処……というよりは便所だな、ここは。強烈な臭いがするので探すまでもなかった。


 それにしても臭いがひどい。暴力的といってもいいほどだ。思わず気が遠くなるが……こんなところで気絶したら最悪だぞ。


 奥歯を噛みしめて、意識を強く保つ。新鮮そうな糞を用意した箱に詰め込んだ。密封性が低いから臭いは漏れるだろうが仕方がない。真っ直ぐに帰って、すぐに肥料にしてしまおう。あとは帰るだけだ。


 だというのに、このタイミングでユニコーンが戻ってきたようだ。パカラパカラと軽快なひづめの音が近づいてくる。


 ユニコーン相手に逃走劇は分が悪い。見逃してもらえるならありがたいが……、あいつら意外と気性が荒いからな。望み薄の可能性に期待するよりは、先制で一撃を入れた方が良いだろう。覚悟を決めて、魔剣を手に身構える。が――


 ……誰か、ユニコーンに乗っているぞ?

 あれはもしかして?


「ケインじゃない? どうしたの……って臭っ!? あんた、臭いわよ!」


 果たして、ユニコーンに乗っていたのはやはり、リサだった。出会い頭に失礼なことを言う奴だ。いや、まあ臭いんだろうけどな。嗅覚が麻痺してきたから、俺はよくわからなくなってきてるが。


「……わかってる。ユニコーンの糞を採取したんだ」

「なっ……!? あんたの変態趣味はそこまで……?」

「そこまでってなんだ!? 聖剣を育てるための素材だ! わかるだろ!」

「あ、ああ……。そういうことね。ビックリしたわ」


 いや、こっちの方が驚きだよ。俺のことを何だと思ってるんだ。


「で、リサこそなんでユニコーンに乗っているんだ?」

「ふふ……、この子は友達なの。時々、村まで迎えに来てくれるのよ」


 マジかよ。だったら、はじめからリサに頼めば良かったな。お前の友達の糞を取ってきてくれって。


 ……さすがに無理かあるか?

 いやいや、リサなら適当におだてればやってくれるはずだ。次回以降はお願いすることにしよう。


「そうか。そいつがいるなら平気だと思うが、森は危険だぞ。気をつけろよ」

「何? 私のことを心配してくれるんだぁ? ふ~ん」


 リサは妙に上機嫌だ。知り合いが危険な場所に出入りしていたら普通は心配すると思うが。まあ、いい。今度こそ帰ろう。

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