Ⅷ‐4

 西島に「明日中に死ね」くらいの勢いでブチギレられて、取り残された俺と村田さんは家の前で話すのも何だし、かといってまた祭りに戻る気になれなくて、近所のゾウさん公園で話すことにした。


 村田さんはゾウさん公園に着くなり「何で怒ったの?」って泣いた。「私、何かした?」って。


「ごめん、何にもしてないよ」

「じゃあ、何で?」

「村田さんが、いつも一緒に帰ってくれてありがとうって言ってくれて嬉しかった。何か特別なことが起こりそうって思ってわくわくした。

 でも、いろんなことで、うまくいかなくて、今日だって、何でこのタイミングなのってタイミングで西島と村田さんと会って、最悪だってやけになった。

 どんな言葉も言い訳にしか聞こえないかもしれないって思ったし、村田さんに嫌われたと思った。そう思ったらムカついた。『こんなことで何で?』ってうまく説明できないんだけど、めちゃくちゃに腹が立って爆発した。マジでごめん」

「西島さんとはホントに仲がいいんだね」

「中指突き立ててたの見てなかったの?」

「あれ見て、私、この子にはかなわないと思った。私が何で櫻井のうちまで来れたか知ってる? 西島さんがね、帰ろうとしてた私をつかまえて『あの癇癪かんしゃく持ちのクソガキの頭、かっくらしに行くけど行く?』って。どうせお子ちゃまがねてるだけだからって、すっごい怒ってたよ、何も成長してないって。

 私は櫻井のことを西島さんほど知らないし、西島さんほど櫻井のこと好きになってないのかも。それに、これから先も、あんなふうに櫻井のことを私は怒れないと思う。あんなに怒っても平気だって思えるほど私は櫻井に対して自信持てないよ」

「西島は中学時代に好きだった子だよ。好きな子じゃなくて、好きだった子」

「嘘だよ。櫻井、西島さんのこと、すごい好きじゃん。櫻井、私の前ではあんな顔、一度もしたことないのに」


 村田さんは頬に幾重にも涙を流して泣いていた。さめざめと泣きじゃくっていた。

今すぐにでもその涙を止めたくて、悲しませたくなくて、いつもみたいに笑ってほしいのに、目の前にいる村田さんが遠い。


「西島さんも櫻井のこと、すごい好きだと思う。私の入り込める余地なんて無いじゃんね」


 村田さんがグズッと音を立てながら鼻をすすり、泣いて涙声に変わってしまった声が悲しさと寂しさとを連れて夜のとばりに響いた。


「それがね、今日、2人のやり取りをちょっと見ただけで嫌ってくらい分かっちゃった」


 村田さんは泣きながら笑った。

 抱きしめようとして近づいて、白くて綺麗な手が舞った。

 バチンという音が鳴り、頬に痺れと痛みが滲んだ。


 目が合って、こんなにも近いのに、

 いつもの綺麗でおしゃべりなが、近寄らないでと言っていた。


「じゃあね」


 夏祭りは佳境を迎え、最後に恒例の花火が上がる。村田さんの後ろ姿が、花火が上がる度に照らされて、また見えなくなってを繰り返してて、完全に見えなくなるまで見てたら知らないうちに泣いていた。


 生意気? 俺に泣く資格なんかないんだろうけどさ、でも全然こんなふうになりたくなかった。傷つけたくもなかった。マジで好きだった。

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