Ⅳ‐3
全部流れでそうなったんだけど、バイトが終わって高杉と沢ちゃんと中谷にバイバイして、地元が近い俺と村田さんは途中まで一緒に帰ることになった。こういう時の無言って平気? 俺はすごく苦手だから、初めて中谷と喋った時も変なことしちゃったし、すごい緊張する。ほんで、今回も当たり前に緊張してて、村田さんの顔をチラッと見たら村田さんが笑った。
「何? 意識してるの?」
「何が?」
「別に。何でもないよ」
村田さんはそう言うとまた笑った。もともとニコちゃん顔の村田さんは笑うとよりかわちくなる。そう、村田さんはカワイイというよりもかわちいのだ。
「今日はすごい頑張っちゃってたね」
暗に中谷のために頑張ってるとこ見てたからねって意味に聞こえたんだけど、責める感じじゃなくて、むしろやるじゃんって感じで好感を持ってくれてるような気がした。
「全然ダメだったけどね」
「うん。でもカッコ良かったよ」
何だろう? 他の子のために頑張ってる姿を村田さんに褒められるというのは複雑な気分だ。素直に喜べないのは俺が村田さんのこともちゃんと好きだからだと思う。
「村田さんは色んなとこに気が付くよね。俺達が回せてないのもすぐに気付いて助けてくれたし」
「たまたまだよ」
もっと喜んでくれると思った言葉が見事なくらいに空振る。村田さんに素っ気ないというか手応えの無い反応をされると悔しいししょげる。原始的な感情が、さっきの駐車場で隣に座ってきた時のなまめかしい村田さんをもう一度見たがってた。
何か喋りたくて、でも言葉が出なくて、こんな時こそ村田さんに喋ってほしいんだけど、村田さんは無言のまま。沢ちゃんだったらこういう時もうまくこなすんだろうなとかつまんないこと考えて、気の利いた話の一つもできないでいる俺カッチョ悪いなとかヘコんだ。
「あ~、もう11時か。家に着いてお風呂入って何やかんやしたら12時だし、そこから携帯でもいじろうもんならあっという間に2時だよね」
話しの種が無くて困ってて、そんな時に交わされる何でもない会話。俺はどこにでもいるつまらなくてセンスの無い男子高校生だったから、何が何でも面白いことを言わないと死んじゃう病気にかかってて、村田さんのこのやり取りでようやく呪いが少しだけ解けた。
そうだよなぁ、男女の会話って愛してるとか好きですとかばっか言ってるんじゃなくて、こういう何でもない会話の積み重ねで成り立ってるんだよなぁって。
「
「お薦めのマンガは?」
「最近は何聴いてる?」
村田さんが知りたくなった。何をしてて何が好きで何を考えてるのか。会話してる途中で急に村田さんは何でこんなにすんなりと男と会話ができるんだろうって考え始めて、しょうもないことなんだけど、そんなしょうもないことが頭をかすめた瞬間に嫉妬と独占欲の塊がもぞりと動いて胸がざわついた。
ついこの間、沢ちゃんに中谷が好きだって言ったし、なぜ自分が中谷を好きになったか長々と沢ちゃんに説明してたくせに、今は村田さんしか見えなくなって、それとセットで身勝手な感情があふれてくるんだから、いよいよ病気だ。
村田さんの過去の男のあれこれを考え始めちゃって、村田さんとの会話が上の空になって「聞いてる?」って聞かれて「聞いてるよ」って嘘ついて、嘘ついたことがすぐ見破られてすげえ怒られた。
「結構ショックなんですけど」って村田さんが不機嫌になってて焦って「違うよ」ってとっさに口に出したら「何が違うの?」って聞かれて「分かんないけど」って答えたら村田さんが「変なの」って笑った。
俺は村田さんの話がつまんなかったとか、村田さんに興味が無いとかそういうのじゃないんだよ、そういう意味での「違うよ」なんだよってようやく説明できるようになったから、あたふたしながら説明したんだけど、村田さんもそれは俺が説明する前から分かってたみたいだし、今となってはそんなに重要なことじゃないっぽくて「分かったよ」って言われてまた笑われた。
村田さんの恋愛戦闘力の高さをまざまざと見せつけられたというか、何か心なしか勝ち誇った顔してるような感じは何なんだろう? これは俺の直感でしかないんだけど俺が村田さんにめっちゃ興味持ってるのがバレたかもしれない。
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