第17話:ジェイコブ枢機卿領傭兵団

アバコーン王国暦287年3月30日ジェイコブ枢機卿領・エマ視点


「傭兵を雇いたいのですが」


 ジェイコブ枢機卿領にある傭兵ギルドは閑散としています。

 枢機卿や神官達に搾取され、傭兵を雇う余裕などないのです。

 それでも枢機卿領に傭兵ギルドがあるのは、今日この時の為です。


「何人雇いたいんだ」


「傭兵ギルドの腕利きを、上から100人雇いたい。

 必要なら家屋敷を売り払ってでも傭兵料金を作ります」


 ミサキがわたくしの言葉を繰り返してくれます。

 本当に大切な時には、疑問もちゅうちょもなく動いてくれます。


 人殺しができないと言う、とても大きな欠点はあるますが、よくやってくれていますから、内心では頼りにしています。


「そういう事なら、奥の応接室で話しを聞かせてもらいましょう。

 私のような受付ではなく、ギルドマスターが話しを聞かせていただきますので、少々お待ちいただく事になりますが、よろしいでしょうか?」


「何事もあわて過ぎては失敗してしまいます。

 ゆっくりと待たせていただきますので、十分な準備をしてください」


「分かりました、こちらにどうぞ」


 事前に話し合っていた通りのやり取りができています。

 ここの傭兵ギルドが裏切っていない限り、これで戦力が手に入ります。


「見事な変装をなされているのですね」


「ええ、貴方方を巻き込まないように、十分配慮しました」


「お気遣い助かります。

 それで、この街を取るのですか?」


「いえ、街ではなく、街を預かっている司教に証言させます。

 神明裁判で神から正義を証明されたと証言させたいのです」


「証言を翻さないように、証人が殺されないようにするのですね」


「ええ、その通りです。

 それと、各地にいる傭兵団と商会に連絡を取り、ハミルトン公爵家を取り返す軍を起こします」


「分かりました、各地に伝令を送ります」


「各地に伝令を送ってしまって、ここの兵力を確保できるのですか?」


「この街の近くに伝書鳩小屋を確保しています。

 教会に見つかると、伝書鳩を確保するだけで膨大な税をかけられてしまいますから、森の中に隠してあるのです」


「細かい手はずは貴男に任せます。

 わたくしは司教を騙す準備をしますから、変装の為の鎧兜を用意してください」


「鋼鉄製の騎士鎧になさいますか?

 それとも比較的軽い革鎧になされますか?」


「神明裁判で領地争いを決着させたい騎士家の嫡男を演じるつもりなので、騎士用の完全鎧を用意してください」


「承りました。

 今貴賓室を準備させているのですが、ここには女傭兵がいません。

 身の回りのお世話をする者がいないのですが、どういたしましょうか?」


 全ての傭兵ギルド館と商会館には、ハミルトン公爵家の者が逃げ込む場合を考えて、隠れ住める貴賓室が設けられています。


 傭兵ギルドと商会の幹部は、ハミルトン公爵家に対する忠誠心の厚い者しか任命されませんが、それでも完全に信用するわけにはいきません。

 ここまできて、味方に裏切られて殺されては恥さらしです。


「自分の身の回りくらいは1人でできます。

 私の情報が洩れるくらいなら、誰もいない方がましです。

 飲み物も食糧も自分で用意してあります。

 部屋だけ掃除してくだされば大丈夫です」


「それほど慎重にしてくだされば、こちらも安心して命を預けられます」


「そうですか、わたくしは普通の事をしているだけですわ。

 それでマスター、父上と母上の事は聞いていますか?」


「いえ、残念ながら逃げられたという情報はありません。

 執務室に焼けた複数の遺体があり、秘密の逃げ道が発見されたものの、途中で天井が崩れてしまっていて、とても復旧できないと言う事でした」


「そうですか、では私がハミルトン公爵家唯一の生き残りという想定で動かなければいけませんね」


「はい、そうして頂ければ、家臣領民が安心できます」


「誰がどれだけ信用できるかはマスターの判断に任せます。

 明日の神明裁判に使う傭兵を集めてください」


「お任せください、エマお嬢様」

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