第18話:神明裁判

アバコーン王国暦287年3月31日ジェイコブ枢機卿領・美咲視点


 ようやく味方の拠点である傭兵ギルドにたどり着いたのに、旅の間と同じように、干肉と堅パンに干果物をかじる食事には閉口しました。


 飲み物でさえ、ロバに運ばせていたワインだけです。

 魔力を蓄えるために、同じくロバに運ばせていた砂糖を舐めるのですが、何の加工もされていない黒砂糖ばかりを舐めていると胸やけしてしまいます。


 ここまで警戒するという事は、エマは味方であるはずの傭兵ギルドでさえ心からは信用していないのでしょう。


 私が言わされた内容を思い出せば、警戒しない不用心な主君では、家臣も安心して命を預けられない世界なのでしょう。


 頭では理解できますが、心が納得できません。

 いえ、怖過ぎて拒絶反応を起こしてしまっています。


 私ではとてもこんな世界で生きていけません。

 最初は何が何だかわからず、徐々に異世界で生きることが楽しくなっていましたが、知れば知るほど怖い世界だと言うのが分かりました。


 できるだけ早く日本に戻りたいのですが、最後の記憶が怖いです。

 暴漢にお腹を刺された私は生きているのでしょうか?


 アニメやラノベの定番では、意識不明の重体で生きている事が多いのですが、確実ではありません。

 もう死んでいて、焼かれてしまった後かもしれません。


(ミサキ、そろそろもったいを付けていた司教がやって来るわよ)


 傭兵ギルドから依頼してもらって、この街を枢機卿から預かっている司教に、神明裁判の証人になってもらえる事になりました。


 多くの賄賂が必要だったそうですが、具体的な金額は知りません。

 私が知っているのは、これから司教に渡す大金貨100枚だけです。


「アチソン騎士家のヘンリック。

 家督争いで誰が悪いのかを神明裁判で決着させたいと言うのは本当か?」


「はい、本当でございます。

 私が仕えるある男爵家が、後継者である私を差し置いて、他の血族に騎士位と領地を与えてしまったのです。

 私が家を継ぐのに相応しく、主家と血族が結託して不正を行い、私を殺そうとした事を証明したいのです。

 神の裁きが下って死ぬことになっても構いません。

 神明裁判の儀式料として、大金貨100枚を司教様に寄付させていただきます。

 私の正義が証明されたあかつきには、白金貨100枚を寄付させていただきます」


「よかろう、そこまでの覚悟があるのなら、神明裁判の証人になってやろう。

 もし貴君が望まれるのなら、他の司祭達も裁判の証人になってくれるぞ」


「司教様だけでなく、司祭様方も独自に証明書を書いてくださるのなら、成功したあかつきには白金貨10枚を寄付させていただきます。

 それと、儀式費用として先に大金貨10枚を寄付させていただきます」


「それでよかろう。

 お前達も証明書を書いてやりなさい」


「「「「「はい、司教様」」」」」


 欲に目がくらんだ連中が、我先に神明裁判の証明書にサインしています。

 今から王太子とイザベラの悪事を暴く事になるのを知らないのです。

 王家から命を狙われる事になるのですが、同情はしません。


 この世界の神官達が腐りきっている事は、わずかな日数で思い知りました。

 ですが、神官は腐りきっていますが、神は実在するようです。


 私の基準でいう神なのか悪魔なのかは分かりませんが、神明裁判が行えるのですから、力がある事だけは確かです。


 ただ、本当に神だと言うのなら、神の使いを名乗る神官達を厳しく取り締まってもらいたいです。


 神明裁判の時に、証人となる神官の悪事も同時に罰を与えれば、腐った神官などいなくなると思うのです。


 そういうことを考えれば、この世界で神と言われている存在は、日本の基準で言えば悪魔なのでしょう。


「証明書への署名が終わった。

 我らの前で大きな声を出して神に祈りを捧げ裁きを受けよ」


「わたくしハミルトン公爵家のエマは神に裁きを望みます。

 わたくしは王家に対して不敬をした事は1度もありません。

 むしろ王太子とイザベラが劣情のためにわたくしを陥れたのです。

 全ての元凶、悪人は王太子とイザベラです。

 叔父ジェームズは主君である父上を裏切った謀叛人です。

 私の言葉に嘘偽りがあれば、神の雷を受けて死ぬことを誓います!」

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