第16話:変装
アバコーン王国暦287年3月30日ジェイコブ枢機卿領・美咲視点
「次、顔を見せて名前を名乗れ。
持ち込む荷物の量によって税がかかるからな!」
(教団らしいやり口ですわね。
どれほど美辞麗句を並べ立てても、やっている事は悪徳貴族も裸足で逃げ出すほどの搾取ですわ)
(それが分かっていて、どうしてここを通ったの?
避けようと思えば避けられたんじゃないの?
ただ荷物を持っているだけで税金を取られたら大損じゃない!)
(確かに素直に税を納めたら大損ですけれど、枢機卿領の腐敗は酷いものなのです)
(どういう事よ?)
(わたくしの言う通りに話せば直ぐに分かりますわ。
以前に行っていた通り、賄賂用の金貨を握らせてください)
「次!」
「これはこれは門番様、お役目ご苦労様でございます。
今日はステュワート教徒として神明裁判を受けに参りました。
何卒よろしくお願い申し上げます。」
「あ、おう、そうか、そうか、同じステュワート教徒か。
神明裁判を受けるとなるとただ事ではないぞ。
教徒なら分かっているだろうが、下手をすると神罰が下って死ぬことになる。
その覚悟があるのか?」
金貨を握らせたとたんに態度が急変した。
まるで安物のドラマや時代劇みたい。
「はい、ございます。
たとえ死ぬことになっても身の潔白を証明しなければならないのです」
(話している間にもう1人にも金貨を握らせて。
こいつもそのつもりで話しを長引かせているのですよ)
(それくらい私だって分かっているわよ)
「どうだ、特に何も持っていないだろう?」
「ああ、そうだな。
神明裁判のための衣装や道具だけしか入っていない」
「2人で確認した、入ってよし!」
「ありがとうございます、門番様」
(それにしても、あれでも神官なのよね?)
(ええ、教団を護るための神官兵士ですわ)
(それが堂々と不正をするのね!)
(はい、渡す賄賂の金額によって扱いが全く違ってきますわ。
金さえ渡せば毒薬でも武器でも街の中に持ち込めますわよ)
(こんなに腐敗しているのなら、髪を染めたり顔を替えたりする必要もなかったんじゃないの?)
(中には真面目な神官兵士がいるかもしれないではありませんか。
わたくしにかけられている賞金が、想定しているより高い可能性もあるのですよ。
髪を染めるのも、口に詰め物を入れるのも、唇の色を変えるのも、老けたようにメイクするのも、必要な事なのですよ)
(私、メイクが苦手なのよね。
アビゲイル達がいてくれたら任せられるのだけれど、今は自分でしなければいけないし、ここを出たらアビゲイル達と合流しない?)
(ええ、いいですわよ。
ここでの計画が完全に達成できましたら、合流しても大丈夫ですわ。
その代わり、今度は敵を確実に殺してもらいますわよ?)
(ごめんなさい、それだけは勘弁してください。
人殺しだけは絶対に無理です。
その代わり、確実に戦闘力は奪います。
両膝と両肘を砕いて、戦えないようにしますから、殺すのだけは許してください)
(どうしてもできないと言うのなら、しかたがないですわね。
その代わり、確実に戦闘力は奪ってくださいね。
殺すだけなら一撃で済むところを、両手両足を潰そうと思えば、四撃必要ですわ。
4人斃せるところが、1人しか戦闘不能にできないのですよ)
(そんな事言われても、できないモノはできないのよ!
平和な世界で生まれ育った私達は、人を傷つける事さえできない者が多いの。
他人を殴れるだけ私はましな方なの!)
(そんな事で、本当に大切な人を護れますの?
ミサキの世界でも、他人を殺す人がいると言っていたわね?
人殺しの人権が守られて、被害者の人権が踏みにじられると言っていましたわね?
大切な人が殺されそうになっても、人は殺せないと言って泣き寝入りしますの?)
(私にだって分からないわよ!
本当に大切な人が殺されそうになったら、人殺しだってできるかもしれないけれど、今は無理なの!
エマの復讐のために人殺しはできないの!)
(どうしても人は殺せないと言うのなら、しかたがありませんわ。
ですが、わたくしのじゃまだけはしないででくださいませ。
わたくしがこの身体を使って戦う時に、邪魔はしないで!)
(……この身体をエマに預けられるように練習するわ)
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