第3話:プロローグ3・毒殺
アバコーン王国暦287年2月5日王都修道院・エマ視点
「おはようございます、エマお嬢様」
「おはよう、アビゲイル。
お爺様と連絡はとれたの?」
「外にいる騎士団とは連絡がとれました。
ブラウン侯爵閣下がどう判断されるかによりますが、早ければ今日中に修道院から逃げる事になると思います。
何時でもブラウン侯爵領まで逃げられるように、準備願います」
「分かりました」
「では早速腹ごしらえしてくださいませ。
お腹が減っていては、戦うどころが逃げる事さえできなくなります」
「分かっていますわ。
しっかりと食べさせていただきますが、毒見をお願いしますね」
「お任せください、エマお嬢様。
材料から厳選しております。
人が変わるたびに毒見をくり返しております」
レオンお爺様が修道院に送ってくださった、修道女と騎士の両方の資格を持つ者たちが毒見をしてくれています。
レオンお爺様から届けられた食材の状態で1度毒見をしてあります。
遅効性の毒物が仕込まれている事も警戒して、時間をかけてから料理します。
新鮮な食材は使えませんが、命には代えられません。
料理をしてからも毒見をしてくれます。
わたくしの前に持って来てくれてからも毒見をしてくれます。
冷めた料理しか食べられませんが、しかたのない事です。
「お待たせしました、エマお嬢様。
十分時間が経ちましたから、食べていただいても大丈夫です」
「ええ、ありがとう、アビゲイル」
干した葉物野菜を水で戻してからスープで煮た料理が前菜です。
普通は酢漬けの葉物野菜を前菜にするのですが、安全のために1度火を通す必要があるので、干した葉物野菜を使っています。
同じ理由で果物を食べることができません。
毒ではなくても、お腹を壊してしまったら、逃げる事も戦う事もできなくなってしまいます。
パンは小麦を丁寧にふるいをかけた白パンです。
小麦の産地も厳選された、貴族の為の高級白パンです。
干肉を水で戻してから煮たシチューがメインデッシュです。
とても品数が少ないですが、しかたありません。
お爺様でも修道院に押し込める人間は限られています。
「アビゲイル達もしっかりと食べていてください。
わたくしを護ってくれる貴女達が空腹で戦えないようでは困りますからね」
「ご安心ください、エマお嬢様。
何度も毒見をさせて頂いていますので、毒見だけでお腹が一杯でございます」
★★★★★★
「ぐっはっ!」
「ぐっ、ぐっぎゃ!
お、おじょ、おじょう、さま!」
いたい、くるしい、いきが、いきができない!
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ。
随分と気を付けていたようですが、何の役にも立たなかったですわね」
だ、れ、だれ、なの。
「どれほど身の回りの物に気を付けても、空気までは気をつけられなかったわね」
く、う、き、くうき?
「このまま放っておいても死ぬでしょうが、確実に殺しておきましょう」
ウォオオオオ!
「お助けしろ!」
「エマお嬢様をお助けするのだ!」
「殺せ、王太子に腰を振る売女共は皆殺しにしろ!」
「北方の野蛮人共が!
このままでは逃げ損ねてしまいますね。
どうせ放っておいても死ぬ事でしょう。
エマ、貴女が死ねば私が王妃よ。
あの世で悔し涙を流せばいいわ」
い、ざ、べ、ら。
いざ、べら、が、わたくしを、ころそうとした。
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