第4話:転生
アバコーン王国暦287年2月13日ガーバー子爵領アームストン城・美咲視点
痛い、苦しい、辛い!
頭もお腹も心臓も痛い!
なんで、なんでこんなに痛くて辛いの?!
「ガーバー子爵閣下をお呼びしてください!
エマお嬢様が目覚められました!」
うるさくしないで!
近くで大声を出されると頭が割れるように痛むのよ!
それでなくとも襲われて……
襲われた!
私は暴漢に襲われて、ナイフでお腹を刺されたんだった!
お腹、お腹の傷はどうなっているの?!
ない、全く何の傷もない?
お腹は凄く痛いけれど、傷跡がない?
あれは、夢だったの??
「ハミルトン公爵令嬢エマ殿。
ようやく目を覚まされたか。
私の事が分かりますか?
以前王家のダンスパーティーで踊って頂いたガーバー子爵です」
え、え、え、え、ハミルトン公爵令嬢エマ殿?
ガーバー子爵?
誰それ?!
「どうやらまだ混乱されているようですね。
医者でもない私が、エマ嬢の寝室に長居するわけにはいきません。
後の事はこれまで通りアビゲイルに任せます。
異変があれば知らせなさい」
「はい、そのようにさせていただきます、ガーバー子爵閣下」
ガーバー子爵閣下?
この光り輝く金髪と陽の光を受けた海のような碧眼の持ち主が?
鍛え上げたのが分かる立派な体躯。
身長は190センチくらいでしょうか?
男らしさと美しさを兼ね備えた宝塚の男役のような美丈夫です!
「よくお目覚めくださいました、エマお嬢様。
私達の油断で危うくエマお嬢様を死なせてしまう所でした。
エマお嬢様を無事にブラウン侯爵閣下の所までお連れしたあかつきには、必ず責任を取らせていただきますので、しばしご容赦くださいませ」
え、え、え、え、何を言っているの?
責任を取ると言われても、何も分からない。
私に何かしたの?
「あの、私、何も覚えていないの。
貴女の名前も分からないし、何をされたのかもわからないの」
「ああ、申し訳ありません!
全て私達の力不足が原因です。
私達の力及ばず、毒を受ける事になってしまいました。
恐らく毒の影響で記憶を失っておられるのでしょう。
回復されたら、記憶が戻るかもしれません。
直ぐに料理が届けられますので、できる限り食べてくださいませ。
食べられたらもう1度お休みになられてください。
食べて休んで毒を体から抜く事ができれば、元に戻るかもしれません」
私は何時毒を飲まされたの?
それとも、地下鉄サリン事件のような事が起きたの?
でも、私は暴漢にお腹を刺されたはずなのに……
あの暴漢は毒に犯された私が見た夢だったの?
それとも、今この瞬間こそが夢なの?
まさか、私が誰かに転生憑依したの?
だったらご褒美だけど、流石にそんな事はないよね?
「毒を排泄させるための薬草をたっぷり入れたスープでございます。
たくさん食べて毒を抜いてくださいませ」
グゥウウウウウ!
恥ずかしい!
私、とてもお腹が空いていたんだ!
とんでもなく大きな音が鳴ってしまった!
それなのに、アビゲイルと呼ばれていた中年女性は無視している。
ああ、美味しそうな香りにまたお腹が鳴りそう。
ソーセージと根野菜がたくさん入っている具だくさんのスープ。
美味しい!
ちょっと苦みとクセがあるけれど、空腹に勝る調味料はないわ!
満腹の時なら不味いと感じたかもしれないけれど、今なら美味しく思えるわ。
え、え、え、え、え?
アビゲイルが見て見ぬ振りをしている?
私、とても行儀が悪いのかしら?
これが転生憑依なら、とんでもない失点だよね。
でも、この世界のマナーなんて何も分からないわ。
ラノベやアニメなら、憑依前の記憶がある事が多いけれど、今回はないわね。
やはりこれは死ぬ前に見ている夢なのかしら?
それとも、死んだ後に見ている夢なのかしら?
「ごめんなさいね、アビゲイル?
私、記憶だけでなくマナーも忘れてしまったようなの。
見苦しいとは思うのだけれど、思い出すまで我慢してちょうだい」
「エマお嬢様が謝られるような事ではありません。
全てはエマお嬢様を護りきれなかった私達の責任でございます。
エマお嬢様が恥をかかれる事のないように、記憶を取り戻されるまで、私達がお世話させていただきますので、安心されてください」
「そうしてくれると、とても助かります。
先ほどのガーバー子爵?
にも、しばらくはお会いできないと伝えてくださる?」
「ご安心くださいませ、エマお嬢様。
ガーバー子爵閣下は、平民であろうと対等に会話される、とても心の広い御方ですので、少々の粗相に目くじら立てる方ではありません。
それに、ガーバー子爵閣下はブラウン侯爵閣下のお世話になられています。
毒を受けられたエマお嬢様がマナーを忘れられても口外なさることはありません」
私は貴族令嬢だから、使用人のアビゲイルは呼び捨てにした方がいいのよね?
丁寧な言葉遣いはしない方がいいのよね?
あああああ、なんて話したらいいのよ!
言葉が通じるだけ、最悪の状態ではないけど、もう少しサービスしてよ!
夢ならいいけれど、最悪の状況を考えておくべきだよね。
「あの、アビゲイル。
申し訳ないのだけれど、ガーバー子爵閣下もブラウン侯爵閣下も分からないの。
私とはどういう関係なの?」
「……ブラウン侯爵閣下はエマお嬢様のお爺様です。
お母上の父親になられます」
「私は母上が嫁がれた先の孫になるのね?」
「はい、オリビア様が嫁がれたハミルトン公爵家の御令嬢でございます。
王太子と御結婚される予定でございました」
王太子?
私をお嬢様と呼び、子爵に閣下を付けるアビゲイルが、王太子に殿下と敬称を付けないと言うのは、何かあったの?
「予定だったという事は、何か不都合があったの?」
「あの腐れ王太子は、事もあろうにエマお嬢様に難癖をつけて修道院に押し込んだばかりか、毒を使って殺そうとしたのでございます!
ハミルトン公爵家を乗っ取ろうと、腐れ外道のジェームズを使って、ハミルトン公爵閣下とオリビア様を殺したのでございます」
キャアアアアア!
頭が、頭が割れそう!
胸が、胸が張り裂けそう!
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